男は強い力で私の腕をつかんだ。いきなりのことに驚いて私は声も失う。男は私にニカッと太陽みたいな笑顔で笑いかけると言った。
「出るぞ」
私の腕が、男の進む方にひっぱられていき、私はそれに追い付くのに精一杯。遠くから食い逃げだ!というおっさんの声が聞こえる。私は、されるがままになっていた。男の手の熱さに眩暈がして、手がしっとりと汗ばむ。
「もういいか」
男はでっかい船の前で立ち止まった。私は急いで男から手を振り払う。振り払われた本人は相当驚いたようで目を丸くして私を見た。
「お前、力強いな」
「あんたよりはね」
「ははっ言ってくれるな」
「それよりどうしてくれんのよ、私まで食い逃げ共犯者になったじゃない」
「まあまあ、俺はあんたと話してみたかったんだ、俺の船で少し話さねえか?」
「話さねえ」
「よし、そうと決まりゃついてこい」
「話さねえって言ってんじゃん」
「だから、お前も話さねえか?って言いてーんだろ」
「同じ言葉でもニュアンスが全然ちげぇよ!勝手に都合のいいように解釈すんな上半身裸体男」
めんどくせえな、男がボソッと呟くと私を俵のように担いだ。はあ?ふ、ざ、け、ん、な
私が拳を振り回すよりはやく男が船に飛び乗った。
「よっこいせ」
男が私を船の上に降ろした。
「お前!」
「おいおい、そう怒んなよ」
はっはっはと男が豪快に笑う。
「俺の名はエースってんだ。お前は?」
「お前に名のる名前はない」
「そういうなよ。無理矢理連れてきたのは悪かったって」
「誠意が感じられない。頭を床に擦り付けて私の靴をみがきながら謝りな」
「調子乗んな」
「乗るか!むしろ降りる」
私が船のへりに足をかけて帰ろうとすると上半身裸の変態が私の肩をつかんだ。 こいつはヌケヌケと私の体に馴れ馴れしく触りやがって!!八つ裂きにすんぞ!!私はその手を振り払う。手には蕁麻疹が出て来ていた。
「だー!悪かったよ。本当にすまねぇと思ってる。今度はお前の番だほら」
「チッナマエよ。そこだけや!!ゴラァァ!!」
「ナマエな。それにしてもお前さっき俺の腕振り払うぐらいだからどのくらい筋肉ついてんのかと思いきや、ひょろいな」
「ちょ、じろじろ見るんじゃねぇよ!変態!」
「おっと」
変態めがけて私の鉄拳がはなたれるも、簡単によけられてしまい。床にバキリと鈍い音をたてて穴があいた。
「うお、おっかねー」
変態はそれを見ると急いで両手を上にあげた。
「おい、エース何やってんだよい」
どうやら音を聞きつけたのか、頭にふさふさの黄色のヘタのっけたみたいな髪形の男があらわれた。ポケモンとかに、こういうのいそう。雷タイプかな?
「あんたの友達すごいインパクトね」
「ん、あぁ。俺もはじめは驚いた」
「類は友を呼ぶのね」
「おいこら、どういう意味だ」
ヘタが私の発言に食いかかってきた。
私はヘタのガン飛ばしに胸糞悪い気持ちになる。私だってお前の頭みてると野菜とかパイナップルとかパイナップルとか思い出して、それから一話の八百屋のオヤジを思い出して胸くそ悪いんだからなコラ。ふざけんなコラ。
「エース、こいつお前の女か?」
「ちげえよヘタ」
ヘタがあまりに的外れなことを言うので私は口をはさんで睨んだ。
「んあ?」
ヘタが私に詰め寄る。
「まあまあ、こいつはただの通りすがりの知人的な奴だ」
変態がヘタを宥めて事情を説明する。ヘタはうなずく。ヘタのヘタがゆれる。私はヘタから目をはなさないでいた。妙に目を奪われるヘタだ。実は誘惑攻撃的なのを使うポケモンなのかもしれない。
「さっきの街でひろったのか」
「おう」
おい、なんか私を差し置いて聞き捨てならねー会話してんじゃねえ。
「いいのか?」
「何がだ」
何故だろう私はヘタの発言に胸騒ぎがした。けしてヘタを見て気分が悪くなったとかではない。と、思う。
「船もう出港してんぞ?」
「「は?」」
次は変態と私の声がこだました。