洗濯物も無事終わった。エースは洗濯物を取り込むと腹の虫を鳴らし始めた。キッチンに肉を拝借しに行こうと誘われたが断った。流石に、そんなに図太く生きれない。
私は人気のない甲板の影を見つけ背をあずけるように倒れこんだ。雲一つない青い空が日差しの隙間から見える。息を吸い込むと潮の匂いがする。海賊は嫌いだけど、海は嫌いじゃない。
「おい」
声のしたほうを見るとパイナップルが此方を見ていた。一気に気分が落ち込む。
「何?」
「お前仮にも女なんだから、こんなとこで横になんなよい」
「うるっさいわ、小言の多い母親か」
「おめえの肉親になった記憶はねえな」
「じゃあ、ほっといて」
「ほう、お前に部屋を貸そうと思っていたがいらないみたいだな」
「それを先に言えってんですよ」
尺だったがパイナップルに部屋の案内をしてもらった。パイナップルは一本取ってやったぜみたいな顔をしている。むかつく。
「ここだ」
パイナップルが目の前のドアを開ける。
「……」
これは、嫌がらせとしか思えない。窓には蜘蛛の巣がびっしりとこびり付いていて、わけのわからないガラクタがたくさん置いてある。ベッドは黄ばんでるし、部屋自体カビ臭い。おまけに変なキノコが部屋の隅に生えてる。
「感動して言葉もでねえか」
てめえのヘタを全部抜いてキノコにしてやろうか。
私が無言で睨んでいると、流石に気が引けたのか「ここしかなかったんだ仕方ねえだろい」と弁解しはじめた。
「このガラクタは隣の部屋にぶっこめばいい」
「はあ、分かった」
「とりあえず日が出てるうちにシーツでも洗ってこいよい」
私は言われるがままにシーツと毛布、枕一式を抱えて部屋を出た。パイナップルが引いた目で此方を見ていた。んだコラ。ムキムキの力なめんな。
シーツをさっきのように洗って干し、毛布と枕も天日干しした。この間にガラクタの片付けをしようと、部屋に戻るとパイナップルがせっせとガラクタを片していた。私が呆然と見ているとパイナップルが「お前も早く手を動かせ」と言ってきた。何か言うのも、もう面倒で蜘蛛の巣やらキノコやらをさっさと取り除いて雑巾がけをした。
1時間後には部屋は住めなくないほどに綺麗になっていた。
「ふう、これくらいでいいだろい」
「うん」
「じゃあな」
「まってよ」
「何かまだ文句があるのかよい」
パイナップルが気だるげにふりかえる。
「これで借り作ったなんて思ってるの?」
「はあ?」
「私、礼なんて言わないよ」
パイナップルが面倒くさそうに頭をかいてる。
「どうでもいいけどよ。初めからお前の礼なんか期待しちゃいない。それに、困ってるやつ助けんのに、そんなに理由が大事かよ」
それだけ言うとパイナップルは立ち去って行った。ここのやつは皆意味わかんない。
でも、認めたくないが良い奴ばかりだ。
△▽△
「よおナマエ飯食いに行こうぜ!」
日が沈んだころに上半身半裸が部屋の扉をノックもせずに開けて入ってきた。
「はあ、アンタなんでここにいるってわかったの」
「マルコに聞いた」
「クソヘタ野郎」
「いいから、早く飯行くぞ」
半裸が私の腕を掴んで引っ張る。私はその手を引き返した。半裸が驚いたように私を見た。
「どうした?」
「…触られるの嫌いなの」
「おお、そーだったな。悪い」
半裸がパッと離して、にやりと笑った。
「何笑ってんの」
「今回は殴りかかってこなかったな」
「そんなに殴られたいの?」
「おいおい、やめろって。あぶねえ」
私は拳を振り上げた。照れ隠しとかではない。
ご飯は食堂で食べるようだ。エースがキッチンに向かって声をかける。
「おーい、サッチ二人分の飯」
「ん?エース、と鬼ババアちゃんじゃねーか」
「おいコラ、リーゼント私のことじゃねえよな」
「はは、血気盛んなやつだな。ほら飯だ。」
「ありがとな、サッチ」
「チッ」
「悪いな、サッチ。これがナマエなりの感謝の仕方なんだ。」
席に着くと、エースがトレーを私の前に置いた。大きなオムライスだ。真ん中にハートが書いてある。悪意しか感じねえ。
「どうしたナマエ?」
「いや」
私は直ぐにスプーンの背でハートをかき消した。
それからオムライスを一口口に入れると……悔しいが物凄くうまかった。卵が口の中でとろとろととろける。チキンライスの塩コショウもピリッと効いててうまい。
トレーを返しに行くとサッチとかいうやつと目があった。ウインクをされてゾッとした。3年は寿命が縮まったかもしれない。
「どうだった?」
「うまかったぞ!サッチ」
半裸が割り込んできてリーゼントに言った。
「お前じゃねえよ!」
リーゼントがつっこむ。
「うまかったよ」
私は二人の反応を聞く前に立ち去った。
(おい、今の聞いたかサッチ)
(ああ、あれはツンデレだな)
(何だそりゃ。病気か?)