(エースサイド)
「やっと終わった」
甲板は多くの洗濯物で埋め尽くされていた。全く親父も洗濯物全部任せるなんて無茶言いやがる。洗濯なんて偶にで良いのにな。凝った肩を鳴らしていると、隣にナマエがのそのそとやってきた。隣と行っても3mは離れているが、こいつから近寄ってきたことは初めてだ。やっと懐いたか?
「何で手伝ってくれたの?」
どうやらまだ信用していないらしい。 少しは信用されてるもんだと期待していただけにすこし落胆した。
「別にいいじゃねーか、終わったんだからよ」
「よくない」
さも気に入らないと言う目でこちらを見ている。まるで昔の自分を見ているみたいだ。だからほっとけないと思ってしまうのかもしれない。
「…勝手につれてきたおわび?」
「何で疑問系。そこは堂々とお詫びって胸張ってよね」
「そうだな!お詫びだ、ハッハッハ!」
「うぜ〜」
ナマエは右手で中指を立ててこっちにむけた。相変わらず、そこら辺の野良猫みたいな女だな。二言目には噛み付くような言葉を言う。こりゃ、懐柔させんのにはまだまだ手掛かりそうだな。本人にこんなこと思ってんの知れたら、また拳を振り上げてきそうだが。
「ここ、座れよ」
その場に腰をおろして隣をバンバン叩く。そこから見える澄んだ空と、風に綺麗になびいている洗濯物の眺めも悪くなかった。なんとも言えぬ達成感のようなものがある。
「はぁ?なんでそんなこと」
「いいだろ、手伝ったんだしそれくらい」
「お詫びなんじゃなかったの」
「やっぱり、それは今度だ、だから早く座れよ」
ほらほら、と隣を叩く。ナマエは相変わらず渋っている。
「俺はお前と話してみてぇんだよ。な!いいだろ?」
そう言うとナマエは少し驚いたような顔をしてから、顔を歪めて、それでもため息をつきながら俺の隣に座った。隣と言っても4mは距離がある。なんか腑に落ちねえが、まぁ、いいか。
「言っとくけど、私は海賊も男も大っ嫌いなんだからね!もちろんあんたも!」
「へいへい」
俺は苦笑いする。ナマエは顔をむっつりとさせてこっちを見ていた。カツオでも渡せば懐くだろうか。いや、むしろひっかいてきそうだな。
「ナマエは旅をしてんのか?」
「そんなたいしたものはしてない。ただいつも最後には色々失敗して終わるから、ひとつの場所にいないだけ」
「失敗?」
「うん。私、自分の力制御できないから」
「クソ馬鹿力だもんな」
「うるせー」
ナマエは毛を逆立ておこった。効果音を付けるならシャーッだ。とたんにペチンと音がして、肩に痛みがきた。横をみるとジト目でナマエがこちらを見ていた。手をパーにしているあたり平手打ちしてきたらしい。しかし、彼女にしたらおそらく加減した方だろう。それでも痛いもんは痛い。それにこれにはちょっとむっとくる。
「いてーな、いきなり何すんだ」
「だって、あんたさっきから失礼なこと考えてたでしょ」
「かっ考えてねーよ」
「嘘。私わかるもんね」
「はァ?そんなワケねぇだろ」
「嘘じゃないって、私本当は心が読めるんだ」
そう言うナマエの顔は本気だった。俺はごくりと唾を飲む。何いってんだコイツ。確かに、そう思うのだが。いたって嘘を言ってるでもない風だ。もしかして本当なのか。考えてみれば、顔は天使のように可愛い、ぺちゃぱいだが。
「ぷ」
ナマエが吹き出す。
「嘘に決まってんじゃん」
「な!お前なァ」
「ばっかで〜の〜」
ナマエは女らしくもなく快活に笑い出した。俺を殴るには自然と近寄らなければならなかったわけで、いつもより側で見たナマエは無防備に見えた。そばにあった手は俺の倍くらいはちっせぇんじゃねぇかというほど貧弱そうで、どうにも顔を見ていられなくなって逸らした。
洗濯物ももう時期乾く頃だ。
20130816