「なあなあ、聞いてんのかよ」

「だああああ!もう煩え!」

床を綺麗にし終わってひと段落ついたと思ったら、今度は上半身裸が話しかけてきた。こっちがあからさまにシカトしてんのに上半身裸は何度も話しかけてくる。本当に本当に本当にしつこい。ありえない。絶対こいつモテない。

「俺も手伝うって」

「いいってば」

「ひとりじゃ大変だろ」

「いいの」

「あのなぁ、俺は別にお前の邪魔しようだないて思ってねぇよ。ただ、1人じゃ大変だと思って」

「分かってるよ!」

洗濯カゴに洗濯物をつめこみながら答える。思っていたより大きな声が出てしまって自分でも驚く。私の後ろに突っ立っているエースも驚いたようで、珍しく黙った。暫しの沈黙が流れる。一拍置いてエースのため息が聞こえた。

「俺、お前に何かしたか?思い当たる節はねぇんだが」

「いや、数えきれないくらいありますが」

「そうか、俺が全部悪かった」

エースがさらりと言う。意味が分からない。彼は何でこうもあっさりと私の言うことを真に受けるのか。それじゃあ、こっちがやり辛いというものだ。
不意に洗濯カゴが宙に浮いた。

「あっ」

「な、これで良いだろ?」

選択籠を抱えて彼がにっこりと笑う。本当に眩しい笑顔で笑うものだ。この笑顔には騙されてしまいそうでいやになる。私が変な顔をしていたのか、上半身裸がぱちぱちと目を瞬いていた。

「そんなシケたツラすんなよ」

今度はがしがしと温かい手が私の髪を乱した。その温かさがまた妙に腹が立つ。

「何すんの!」

拳を振りおろす前に上半身裸はヒョイと後ろに飛び退いていて私の攻撃をいとも簡単にかわした。得意気になるわけでもなく、嫌そうな顔をするわけでもなく、ただそれが当たり前のことのように笑っている。全く理解が出来ない。何がそんなにおかしいのか。

「はやく乾かしに行こうぜ」

エースは後ろを振り向かず、勝手にずんずんと歩いていく。彼は私がそのあとを追いかけてくることを信じて疑わないからだ。鮮やかな刺青が刻まれた背中が遠退くのを見つめながら、自分の運命を恨んだ。

「ばかみたい」
20130114
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