「なるほどな、そういうわけか」
ひとまず、私が変態に受けた迷惑行為の一通りを話すと、ひげバナナは次の島まで船に乗ることを了承してくれた。どこかのヘタポケモンとかパイナップルヘアーとかムラムラした男と違って、ひげバナナは話の分かるやつである。
「……おい」
はあ〜、あいつとは違って
「……おい、てめえ!何ジト目で見てやがるんだ、絶対失礼なこと考えてるだろい」
「べっつに」
「その顔ムカつくんだよい、殴らせろ!止めんなエース」
ヘタがまた暴れようとするのを上半身裸が慌てて止めにかかる。
「まあ、気持ちも分かるが、静まれマルコ」
「……分かったよい」
ヘタはモンスターボールにおさまったように大人しくなった。でも、表情はギラギラとしていて、こちらを睨みつけている。随分と私に腹を立てているらしい。だが、一言言わせてもらえば私も腹を立てている。なんせ、前の町は変態じじぃが多かったし、腰にジャラジャラをつけているチンピラもいたりしたが、久々に居心地がよいと思える町だったのだ。それなのに、いきなり見ず知らずの変態男なんかに引っ張られ怪しい船に乗せられるなんて。
「うちの馬鹿息子が悪かったな」
「べつに、おっさんが悪いわけじゃない。それに、乗せてってくれるんでしょ?」
「ああ、もちろんだ。ただし条件がある。お前にひとつ仕事を頼みたい」
「……仕事?」
私が怪訝な顔でひげバナナを見ればひげバナナはにやりと笑って私をみた。ああ、今になって分かった。海賊やってるやつにろくなのはいないってこと。これは質の悪い人間のする笑顔だ。良からぬことを思い付いたに違いない。
「洗濯当番をやってもらいたいんだ」
「はあ?何で私がそんなこと、たくさん雑用係ならいるでしょ」
「人手不足ってやつだ。ま、働かざるもの食うべからずってゆうだろ。グララララ」
グララララじゃねえよ。あんたの発言に目の前がグララララだよ。こんなむさ苦しい男達の洗濯物を毎日洗うなんて……
めのまえが まっくらだ ▼
しかし、働かざるもの食うべからずなんて言われてしまったら、こっちはぐうの音もでない。さっきは、誘拐されたという理由で優遇されるかと思ったのに。上げといて落とすなんて、ひげバナナは明らかに他より質が悪い。
「まあ、一人は大変か」
「当たり前でしょ」
「じゃあ、エース。お前が手伝え」
「な!?」
「は!?」
私と上半身裸の言葉が重なる。はもった事に寒気がしたが、今はそんなこと関係ない。こいつと洗濯やってたら終わるもんも一生終わらない気がする。勘。
「絶対いやだ。それならひとりでやる」
「な、お前なぁ……」
エースが呆れ顔で私を見る。
「ほう本気か」
ひげバナナがにやりと笑った。私はしまったと頭をこめかみをおさえた。これじゃ売り言葉に買言葉だ。どんどんひげバナナのペースに飲まれてく。
「や、やっぱりあんたの周りにいるナイスバディをふたりほど派遣させてよ」
「だめだ。こいつらにもこいつらの仕事がある。それに……」
「なに」
「女に二言はねえだろ?」
ひげバナナはさも楽しそうに笑ってくれた。こいつ、馬鹿にしてる。私が困ることをして値踏みしてるんだ……。んなもん返り討ちにしてやる。
「結構じゃない。やってみせるよ」
私はフンと鼻で笑ってやった。
20131224