「グララララ!」
目の前のひげバナナが豪快に笑いだした。まるで地震でも起きそうな笑い声にたくさんの船員が寄ってきたようだ。部屋の前が少しざわつき始めている。しかし、私はひげバナナよか、そのとなりにいる、ないすばでぃなナース達のほうに目がいってしまう。何?何なの?何を食ったらあんた体型になるわけ?べつに悔しくなんかないんだからね。だから、どうか私に巨乳の秘訣を教えてください。
「お前、賞金首狩りのルーキー。馬鹿力の鬼人って呼ばれてる女、ナマエだな?」
むらがっていた船員からどよめきが起こった。上半身裸体の変態は少し驚いた顔をしたあと口から銃をひっこ抜いて、鋭い眼で私を見る。横にいるヘタも今にも私に飛びかからんばかりの体勢で構えている。だがしかし、私は、その横にいるナースの格好に圧倒されていた。この船にのるとみんな変態になってしまうのか。どうしよう、私、変態になりたくない!
「って、何勝手に人を鬼ババア扱いしてんのよ」
「ふん、気勢の良い女だな」
ひげバナナが不気味に笑う。不気味すぎて私は鳥肌がたった。腕がざらざらする。
「おい!てめえ親父の首をとりにきたのか」
一人の船員Aがヒステリックに叫びながら私の胸ぐらにつかみかかる。他の船員達は息をのむように様子をうかがっている。
「はなして」
「質問に答えろ」
「はなして」
「おい!なめてんのか!」
船員Aが私の反応に苛だったのか青筋をたてて怒鳴り散らす。
うるさいな。苛だってるのはお前だけだと思うなよ。私は船員Aの手をつかんで強く握りしめた。船員Aは顔を痛そうに歪めて胸ぐらから手をはなした。私は船員Aの腕をそのまま担ぎ上げてほうり投げる。投げられたほうは、あっさりと宙をとんで派手に壁に刺さった。威勢は良かったのに、呆気ない。私は襟元を正す。
「服がのびた」
途端に空気が冷たく張りつめる。ちょっとまずいことしたかもな。はあ、だるい。
「なあ、鬼人」
そんな張り詰めた空気の中。一番に声を出したのはひげバナナだった。
「そんな名前じゃない」
「おお、そりゃ悪かったな」
「分かれば良いよ」
視界の端でヘタマルコが歯ぎしりしているのが見える。なるほど、ひげバナナのおっさんは、なかなか愛されキャラってわけね。
「ナマエ、俺はお前が俺の首を狙いにきたとは思えないな」
ひげバナナがまっすぐに私を見た。私もまっすぐにひげバナナを見る。
「うん。私はべつにおっさんの首なんか狙ってないよ」
そう言うとひげバナナはまた不気味に笑った。私は少し不愉快になって顔を歪める。そんな私の前にヘタマルコがひげバナナを庇うように仁王立ちした。なんか偉そうだな。
「じゃあなんで賞金稼ぎなんかしてる」
「賞金稼ぎなんかしてない」
「は?意味わかんねぇな。海賊を倒して売ったから賞金稼ぎって言われてんだろい」
「前に海賊を倒したのはアイツらがヤらせろだの酒に付き合えだのうるさかったから。そこにたまたま海軍が来たのよ。それが、偶々2、3回合っただけよ」
「うるさかったってだけで、わざわざ海賊を倒すのか?」
「私にとって、その行為がうるさかっただけでは済まなかったてことよ。特に、下品で汚い男なんて大嫌いだから」
船全体が再び微妙な空気に包まれる。ヘタマルコは未だに腕を組んで仁王立ちしたままだ。私達はにらみあう。バチバチって効果音がつきそうなくらいに。
「あのよ、聞いてほしいことがあんだが」
「なんだよい、エース」
「なによ、上半身裸体」
「ひとまず壁に刺さったあいつを外してやらねーか?」
「「……」」
私達は静かに壁に突き刺さって気絶している男を見た。