何でこんなことになったんだろう。私はグラスのストローを回して正面の二人を見る。一人は幸せそうにパフェを食べていて、一人は怪訝そうな顔でこちらを睨んでいる。

「ポテト食わねえの?ナマエちゃん。」
「あ、食べます。」

 マイキーさんの言葉に私は目の前のポテトを摘んで食べた。塩がよくきいている。
 ちらりとマイキーくんの隣に座ってる千冬を見れば、また彼は物欲しそうな顔でポテトを見てた。千冬は人の食べてるもんが食べたくなるタイプなのかな。やらないけど。

 何故、私が二人とファミレスに居るかというと、エマの家に遊びに行った際に、おじいちゃんが運悪くぎっくり腰になってしまったらしくエマが病院まで付き添うことになった。エマが帰ってくるまで佐野家で待っていると、マイキーさんが起きてきて腹が減ったと言い始めた。私はマイキーさんに引きずられるようにして、ファミレスへ行くことになった。そこでたまたま千冬に会ったのだ。彼は場地さんと此処で待ち合わせているらしい。ことの成り行きで私たちは一緒にテーブルを囲うことになった。

「ねえ、ナマエちゃんってさー。」
 マイキーさんが口にチョコをつけながら私に話しかける。
「何ですか?。口にチョコついてますよ。」
私はマイキーさんに紙ナプキンを差し出す。
「彼氏いんの?」
 マイキーさんは脈絡もなく恋バナを始めた。マイキーさんの隣に座ってる千冬は変なとこにジュースが入ったのかむせている。
「いません。」
「へー、好きな人とかもいないの?」
「そういうのあんまり興味ないんで。」
「出た、そういうの。」
 マイキーさんは面白くないというようにメロンソーダを啜りながらこちらを見ていた。どうやら、彼の期待する答えではなかったらしい。

「そうは言われても興味ないんですもん。」
「じゃあ好きなタイプは?」
「好きなタイプ?そういうのもマジで無いです。」

 マイキーさんの尋問みたいな質問が続く。暇つぶしにされてる気がするわ。私はポテトを齧りながら窓の外を見た。早くエマ来ないかな。矢継ぎ早の質問から逃れたい。

「じゃあ東卍で言えば誰がいい?」
「え、もっと無いんですけど。」
「いや、これは絶対答えないと行けないから。答えるまで家に返さない。お前のこと永遠に追い回す。」
「いや、暴君かよ。」
「いいから答えてよ、ナマエちゃん。」

 マイキーさんがコテンと首を傾げて私を見た。これは自分がかわいいことを分かっててやってやがるな。愛しの親友の兄妹なだけあって彼の姿がエマと重なる。私は心の中で悶絶をした。こんなことを思っているのがエマに知れたら、浮気だと大目玉を食らうだろう。私は咳払いをして気を取り直した。

「いや、東卍でタイプ?まじで思いつかないです。」
「俺とかどう?ナマエちゃんは可愛いの好きじゃん。俺、良く女子に可愛いっていわれるよ?」
 マイキーさんは語尾にハートマークがつきそうなほど甘い声で私に言った。
「いや、マイキーさんのは計算された可愛いというか、小悪魔的な可愛いなので、私の求めているものとはちょっと違いますね。私はもっと純粋な気持ちで可愛いと言いたい。」
「はァ?ワガママだな、ナマエちゃん。」
「急にキレるじゃん、情緒やば。」

「で?誰が良いんだよ。」
 尚もマイキーさんは私に質問をふる。パフェののグラスは綺麗に空になっていた。
「まだ続けます?その質問。誰にもメリットないと思うんですけど。」
「俺が面白いからすんの。」
「まじですげーよ。マイキーさん。横暴の塊ですね。」
「ほら、早く。」
「はあ。じゃあ、場地さん。」
「何で場地?一番可愛くねーじゃん、アイツ。」
「いや、場地さんは可愛くないけど、あの人のそばに居ると猫がすぐよってくるんですよ。それにあやかりたい。」
「金目当ての女みたいだな、ナマエちゃん。」

 マイキーさんは急に興味を無くしたかのようにソファーへ沈んだ。一方的に質問してきたくせに、めっちゃ人聞き悪い事言われてる。

「じゃあ千冬でもいいじゃん。猫飼ってるし。」
「まあ、確かに。東卍で言えば千冬は可愛いかもしれない。」
「「え!?」」
 マイキーさんと千冬は声を揃えて驚嘆の声を上げた。私は二人の反応にビックリして肩を揺らした。

「え、何。二人とも、そんな急に声揃えて仲良しになって、どうしたんですか。」
「ナマエちゃん、千冬の事、可愛いと思うんだ。」
「はい。何か場地さんを慕ってる姿が(犬みたいで)可愛いとは思います。」
「は?可愛くねーよ。馬鹿にすんな、クソナマエ。」
 千冬が私の言葉が気に入らなかったようで顔を赤くして怒り始めた。可愛いというキーワードが気に入らなかったようだけど、そこまで怒ることか?
「口悪。やっぱ可愛くないわ。クソ千冬。」

「千冬、顔真っ赤だぞ。良かったな可愛いって言ってもらえて。」
 マイキーさんは意地悪い顔で千冬を揶揄うように言った。面倒臭い雰囲気。あー、なんか嫌な予感がする。
「やめてください、マイキーくん。俺ムカついてるだけですから。お前が余計なこというからだぞ、気持ち悪いこと言うんじゃねぇよ。ウゼェんだよ。」
「はいはい。ごめん。今は千冬の事可愛いと思ってないから安心して。やっぱり私の天使はエマだけだわ。」
「お前、本当にそういうところ直せよ。口調も乱暴だし女らしくなさすぎ。」
 訂正したにもかかわらず、尚も千冬が私に突っかかってくる。しかも、女らしくないとか今の話に関係ないこと言ってやがるし。女だからどうしろとか、考え方が昭和かよ。そういうの本当に嫌いだわ。

「うざ。そこまで千冬に言われる筋合い無いけど。」
「本当のことだろ、エマをちょっとは見習って女らしくしたらどうだ。お前、ゴリラみたいだぜ。」
「は?エマが可愛いのは当然だけど、アンタにそんなこと言われる意味分かんないんだけど。しかも人を比較して貶すとか最低すぎだから。マジ気分悪いわ。」
 私は財布から千円を出してテーブルに置くと、鞄を持って帰る準備をした。この前はちょっと千冬のこと良いやつかもって思ったけど考え違いのようだった。

「待って、ナマエちゃん。」
「何ですか、マイキーさん。悪いけど今日は何言われても、もう帰りますから。」
「うん、それは良いけどさ俺はナマエのこと大好きだから、そのままで十分可愛いと思うよ。」
 マイキーさんのストレートな言葉に私は恥ずかしくなる。こんな事で千冬にキレるなんて大人気なかったかも。私はマイキーさんにお礼の言葉を言うと、逃げるようにその場を後にした。



 俺は気づいていた。空気が氷点下まで下がっていたことを。原因は分かってる。この無駄口のせいで己(おのれ)の首をしめたのだ。

「お前さ、ナマエちゃんのこと好きになるのは勝手だけど、もし傷つけるなら殺すよ?」
 やはり、原因はナマエだった。でも自分に百パーセント非があることを分かっていたので弁解の言葉もない。マイキーくんの目は光がなくて、今にも俺に殴りかかってきそうな雰囲気だった。それだけ、彼女のことを気に入っているのだろう。

「すみません。」
 俺は素直に謝った。もはや、謝る以外の選択肢はなかった。
「謝る相手は俺じゃねえだろ。」
「はい、ちゃんとナマエに謝っておきます。」
「絶対だぞ。」
「はい。」

 俺は頭を抱えた。自分でも何であんな事を言ってしまったのだろうと頭が痛くなる。ナマエは確かに言葉は少し乱暴だが、そこは嫌いじゃ無いし、そんなとこもカバーできるほど女性として魅力的な人間だ。

「まあ、それは良いわ。お前、ナマエちゃんのどこが好きなんだよ?」
「え、いや、俺は別にナマエのこと好きじゃないですよ。」
「はぁ?あんな分かりやすい反応しといて、どの口が好きじゃないとかほざくんだよ。」
「本当に好きとかじゃないです。」

 俺はマイキーくんから目を逸らして言った。好きと言うほど俺は彼女を知っている訳ではない。というか、先日から場地さんといい、マイキーくんといい、俺はそんなにナマエが好きなように見えるのだろうか。

「あっそ。じゃあ俺がナマエちゃんのこと、狙ってもいんだな?」
「え?」
「俺はナマエちゃんのこと可愛いと思ってるから。」
 俺は返す言葉もなく口をつぐんだ。俺が今何かを言う資格はない。

「おう、千冬待たせたな。あ?なんだよ、マイキーもいんじゃねえか。」
 場地さんがテーブルまでやってくる。どうやら、用事は済んだようだ。
「場地、聞いてくれ。俺、ナマエちゃんのことが好きになったから付き合えるように応援してくれ。」
「は?お前何言ってんだよ。お前の好きなタイプ年上だろ。」
「うるせえ。今日から年下になったんだよ。」
 場地さんは面倒くさいというように、ため息をついて頭をかいていた。そして、俺に目配せをする。

「千冬ぅ、だから言ったろ?」

 場地さんは全てを見抜くかのように言った。


愛を知らない君達に


20210925
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