顔やスタイルにはそれなりに自信があった。街を歩けば芸能事務所のスカウトにもあうし、ファッションもメイクも好きだから雑誌のモデルなんかもしている。学校では男女から羨望の眼差しを受けているし、友達になりたい、付き合いたいなんて言う奴は沢山寄ってくる。

「千冬くん、私と付き合ってください」

「気持ちは嬉しいけど、今は恋愛に興味ねえから」

「は?」

「それじゃあ、人待たせてるから」

そんな私が振られた。あり得ない。
制服だって下品にならないくらいに着崩して、髪は緩く巻いて、なるべくナチュラルに見えるようにメイクをして爪だって昨日の夜に綺麗に塗り直したり、可愛く見えるようにした筈だ。

だけど、松野千冬はさっさと私を残して去っていった。

こんな屈辱、初めてだわ。
私は荷物をまとめてトボトボと帰った。野次馬どもが一緒に帰ろうと寄ってきたけど、とてもそんな気分にはなれなくて断った。

私の何がいけなかったんだろうか。ファッションが好みじゃなかったのか。もしかしてもっとウブな感じの女が好きだったとか。
それに人を待たせているとか言ってたけど、その人の事が好きって事なのか。

イライラしながら帰路についていると、誰かに後ろから手を掴まれた。振り返るとダサイ男たちが5人私の後ろに立っていた。私の手を掴んだやつが一番目立った格好をしていて、短ランにダッサイ赤のTシャツを合わせ首元には趣味の悪い金のネックレスをゆらしていた。

「お姉さん、俺らと遊ぼうよ。かわいいね。」

「は?キモいんだけど、手を離してくんない」

後ろに控えてる不良がイキって口笛を鳴らした。全員が馬鹿にする様にニヤニヤと笑っている。

「連れないじゃん。俺らが優しくしてるうちに言うこと聞きなよ。」

私は無言で男の手を振り払った。

「あ?クッソ生意気な女が力の差を思い知らせてやるよ。」

今度は不良が私の頬を殴った。力の加減も知らないのか、私は尻餅をついて後ろに倒れる。口の中は切れたのか鉄の味がした。
後ろの不良たちは止める事もなく囃し立てる。道端でいきなり女に手をあげるなんて、どう考えても異常だ。それを少しも動揺することなく、むしろ楽しんでる。どうやら、こういったことをするのが初めてじゃないらしい。脳味噌の髄まで腐ってやがる。

「初めに言っとくけど、お前らみたいな奴と私が遊ぶなんて天地がひっくりかえってもないから。」

敢えて目の前の不良たちを挑発するように笑顔をみせた。案の定、最初に殴ってきた奴が私の方へ近づいてくる。私は体勢を整えて男の股間を蹴り上げた。男は唸り声をあげて倒れる。その顔を容赦なく蹴った。それを見て狼狽している男の連れを片っ端から学生鞄で殴る。今日は英和辞典を入れてきて良かった。

「このクソアマがぁ!」

不意に後ろから鈍器のようなもので右腕を殴られた。不良の叫び声のお陰で頭を殴られるのだけは避けられたけど、右腕に激痛が走った。
集団で女に殴りかかってくるし、喧嘩にエモノ使ってくるなんて卑怯な奴らだ。

「ザマァみろ。こっからは俺らのお楽しみタイムだな。」

エモノを使ってきた男が私の胸ぐらに掴み掛かる。制服のシャツが弾け飛んだ。

「やってみな。何されようが、私の心はお前らなんかに折られないから。」

私のシャツに掴みかかっている男の手を思い切り噛んだ。血の味が広がる。私は直ぐに地面に唾を吐いた。男は腕を抑えると情けなく後ずさる。

こいつの他にあと3人か、これは流石にキツいな。私は覚悟を決めて口元を拭った。


−−−−−−その時、男のうちの1人が壁へめり込んだ。殴った方を見れば、よく見知った顔がそこに立っていた。

「よお、じゃじゃ馬は相変わらずだな」

場地だ。
昔、通った道場で出会ってよく遊んでた。今はもう遊ぶ事は減ったけど、腐れ縁で学校が同じなのだ。

「場地さん大丈夫ですか?」

後ろから来たのは今は会いたくない人だった。

「あれ?この人。」

「千冬ぅ、先ずはコイツらシメるぞ。」

「はい!」

その後、2人は5分ともかからずに不良たちを倒した。2人の関係性を見るに、どうやら場地が千冬くんを率いているらしい。さらに千冬くんの戦い方から場地のことを相当信頼している事がみてとれた。そして心なしか楽しそうだ。
もしかしてだけど、私は幼馴染のせいで振られたの?

「骨のねえ奴らだな。こんなのにやられてんじゃねぇよ、ナマエ。」

「うるさい、場地ぃ。さっさと上着貸して。」

「そんな色気のねえ体だれも見ねえよ。」

そう言いつつも場地が上着を私の肩にかけた。

「場地さん、この人と知り合いなんですか?」

「幼馴染だ。」

「千冬くん、場地とつるんでないで私と一緒にいた方がおもしろいよ。」

「あ?んだよ、お前が惚れた男って千冬のことか?」

千冬くんが様子を伺うように場地と私を交互にみる。その様子は猫みたいで可愛い。

「騙されんなよ、千冬ぅ。コイツ本当は男の股間を平気で蹴り上げるようなゴリラ女だからな。あそこに倒れてる赤シャツ見てみろ。股間押さえて気絶してやがる。」

「変なこと言うな馬鹿場地ぃ!」

私が振り上げた手を場地が簡単に掴む。それが余計にムカついた。

「あ、えっと、場地さんの幼馴染とは知らず失礼しました。」

千冬くんが慌てたように謝る。敬語の慣れてないウブな感じ。

「かわいい!」

私は千冬くんの頭を撫でる。髪はとってもサラサラだ。千冬くんは慌てたように隣を見ていた。私のスキンシップにも動じず馬鹿場地を気遣うなんて、正真正銘に場地のことを尊敬しているらしい。はー、場地気に入らない。

「千冬ぅ、言っとくけどな。コイツとは何にもねえから気ぃ遣うなよ。」

「ホントホント!私が場地と付き合うなんて絶っっっ対あり得ないから!」

「あ?こっちこそ願い下げだわ」

「こっちの方が願い下げよ」

「殴られ足らねぇみたいだな、ナマエ」

「いいじゃない、久しぶりにヤる?」

「大体、そんな短ぇスカートで練り歩いてるから絡まれるんだろ。馬鹿じゃねえの。」

「は?このくらい普通だし。」

「化粧も濃いんだよ。してねぇ方がマシだろうが。」

「うっざ。兄貴ヅラすんな。」

「お前みたいな妹いらねぇわ。」

場地が馬鹿にする様にデコピンをしてきた。クソムカつく。

「本当ムカつく〜。私もう行くから、じゃあね。ついてこないでよ。」

私は出来る限り怖い顔をしてから場地に背を向けた。

「……助けてくれた事には感謝する。ありがとう。」

一応、捨て台詞を吐いて、私は立ち去った。

***

「まさか、ナマエの惚れた男が千冬だとはな。」

「あ、いえ、そんな。」

千冬はなんと答えて良いか分からず言葉を濁した。場地の顔色を伺うがあっけからんとしていて深い意味はなさそうだった。

「見る目はあるようだな、馬鹿ナマエにしては。」

千冬は熱くなる頬を隠すように顔を伏せた。

「でもアイツと付き合うのは大変だぞ。わがままだし乱暴だし口も悪いしな。」

そう言う場地の表情はとても楽しそうで、千冬は彼の気持ちに気付いてしまった。何よりも彼の先程の彼女への表情は、彼のもう1人の幼馴染へ接する態度とはまた違う、熱のこもったものだった。

「ん、なんだ千冬、難しい顔して。」

「何でも無いっす。」

ただ、一番困った事には、彼自身が自分の気持ちに気づいていないことだ。
千冬は面倒な事になったと気づかれないようにため息を吐いた。

20210526
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