※百合注意

やっぱりすきだなあ。

うっかりつぶやいてしまった言葉は悲しく静かに私の心の奥ふかくに染み込んでいった。さっき温めたばかりのミルクはまだ熱くて唇さえつけられない。ゆらゆら揺れる湯気がどこか恨めしい。

だめよ、ハーマイオニー。きっと彼女にこの気持ちを伝えてしまったら、涙を目にいっぱいためて謝るに決まってるわ。(あと1年もしないうちに、彼女は卒業してしまうわ。ほんとにいいの?)ううん、いいの。だって彼女の泣かしちゃうのはすごく良心が痛むもの。友達、その枠にはまってるだけで、私は十分だわ。(ああ、3年もの差がもどかしい。私も彼女と同じ年に彼女と同じように生まれていたのならもっと一緒にいられたのに)

だめだめ!違うことを考えよう。借りたばかりの本を開くとたくさんの数字が私を待っていた。13522354851…(キスなんて簡単なことさえ私と彼女の間にはには許されないのね。)うるさいだまってお願い。手も繋ぎたい、抱き締めたい、キスしたい、これは愛している人に抱いてしまう気持ちなんじゃないの?それが、性が同じってだけでいけないことになってしまうなんて。かなしいわね。私は、どうやって、息をすれば、いいのかしら?

「ミルク、さめちゃうよ?」

さっきまでのどろどろした気持ちの塊は一瞬で溶かされていった。あまい香りにふりむく。

「ナマエせんぱい」

「かたっくるしいなあ。呼び捨てでいいってば」

彼女の細い指が私のコップの取っ手をつかんで唇へ運ばれていった。一口飲むと、彼女は「うん、ちょうどいい温度」と私に微笑んだ。それだけで、私の心臓は魔法にかけられたみたいにうるさくなる。(自分にうそをつくなんてできっこないわ。)私は数字に視線を落とす。6587971244…

「ナマエは卒業したらどこへ行くつもりなの?」

(ずきん、ずきん)

「んー、どうしよっかなー」

(どこにもいかないで)

「どうしようかなって。ナマエは卒業まであと1年もないんでしょ?」

(ずきん、ずきん)

「はは、そうなんだよね」

(こんなこと言いたくないのに)

やっぱり数字だけの本は少し退屈ね。ファンタジーやメルヘン物語でも借りて読んだほうが楽しいわ。私はぎこちなくコップに手をのばす。

「お嫁にでもいこうかな」

(そんなこと言わないで)

ミルクの注がれたコップが倒れてあまい香りが部屋にひろがった。彼女は短い悲鳴をあげる。(誰かのものになってしまうなんて)彼女がコップを建て直して杖をだす。(たえられないわ)私は彼女の手を掴んだ。

「いやよ」

「え?でも、もとにもどさないと」

(この関係がくずれてしまうかしら)

「すき」

「、なにを」

(もとにもどれなくなるかしら)

「あなたがすきだわ」

彼女の華奢そうな杖が手からミルクの湖に滑り落ちた。(我慢するべきだった?)湖は小さな波をたててゆらゆらゆれている。(いいえ、もう十分我慢したわ)私はローブから杖をだして。呪文を唱えた。ミルクは元通りに、杖は彼女のローブへおさまっていった。

「ハーマイオニー」

彼女の困惑した顔が不安がちに私を見ていた。(どうかしてるわね、かわいいと思うなんて)きっとあなたに会いにここに来ることはもうないわね。

「さようなら、ナマエ」

(さようなら、ミルク色の悲しみ)


タイトルはヘソより
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