※大分胸糞悪いです。報われません。
※ヒロイン死ネタ

苦しい。冷たい。水の底には暗闇しかない。それでも瞼(まぶた)の裏に確かに貴方が見えるのです。私がたとえこんな目に合おうとも、私の心はずっと貴方をお慕い続けているのです。ただ少し心が痛くて仕方ないのです。私には、この痛みの誤魔化し方が分かりません。

初めて先生のことが好きだと気付いたのは四年の頃でした。たまたま忍たまの長屋へお使いをお願いされた私は二つ返事で承諾いたしました。何故なら、そのお願いをしたのは他でもない私の無二の親友であったからです。彼女は人のものを羨ましがっては欲しがるという困った癖があったのですが、それ以外は優しく明るく非の打ち所がないように見える子でした。一方私は暗くて無口なツマラナイ子でしたので、私のようなやつを友人として迎えてくれた彼女が大好きでした。彼女のお願いは私の代わりに忍たま長屋の図書館へ本を返してきて欲しいとのことでした。どうしたのかと聞くと彼女は腹が痛いのと苦しそうにいうものだから。

そうして長屋へ来たわけですが私は道に迷ってしまったようでした。きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていると謎の浮遊感。気付いた時には穴へ落ちていました。どうしてこんな所に穴が。

「だ、誰か助けて」

私の細い声はひっそりと響きます。昔から良く責められるのですが、私の声はとても小さすぎるようです。治そうと努力はしているものの中々難しいです。私は悲しくなりました。きっとこんな声じゃ誰も気づいてくれやしない。

「そこに誰かいるのか?」

私は一等驚きました。私の小さな声に誰かが気づいてくれたのです。

「こ、ここです。助けてください」

1分としないうちに穴へ影が差しました。逆光で誰かは見えませんが確かにそこに人がいます。

「つかまって」

私は必死に伸ばされた手へ捕まりました。手は私を力強く引っ張り出してくれました。狭くて暗くい穴は消えました。正確には私が穴から消えたのですが。

目の前にいたのは若くて格好良いと噂になっていた先生でした。その噂は本当でした。私を助けてくれた先生はとても格好良かった。恐怖と不安から一気に解放され、先生の顔を見た瞬間、涙がでそうでした。

「大丈夫か?大変だったな」

先生が頭を優しく撫でるものだから気づけばボロボロと涙がでてしまった。先生は困った顔一つせず私を宥めてくれた。

「あー!くノ一だ」

誰かの声が聞こえる。恐らく忍たまだ。私は泣き顔を見られたくなくて必死に顔を覆った。最悪だ。こんな弱い姿、忍たまなんかに見られたくない。

「こら、小平太。あっちへ行きなさい」

先生が私を胸に抱きしめた。私の顔が見えないようにしてくれてるんだ。

「先生、その子誰だ?」

「無神経なのは良い忍びになれないぞ」

「それはやだ!」

「よし良い子だ。じゃあ、この子はそっとしてあげてくれ」

「分かった!」

そう言うと。イケイケドンドンー!と不思議なかけ声が遠ざかっていった。

それから親切にも先生は本を代わりに返してくれると受け取り、私をくのたまの長屋前まで送ってくれた。

「ありがとうございます」

「いえいえ」

「あ、あの」

「ん?」

「先生の名前は?」

「私は土井半助だよ」

「土井先生」

「また困ったことがあったら呼ぶんだぞ」

「は、はい」

その日から初めてだった。誰かに恋い焦がれるというのは。切なくて苦しくても私には先生と一緒に居られるだけで幸せだった。幸せな恋だった。

時には一緒にご飯を食べたり、火薬委員会のお手伝いをしたり、分からない問題を教えてもらったり、どんな理由でもつけてお側にいたかった。

その甲斐あってか6年の頃には、すっかり先生と打ち解けていた。今日も先生が採点なさるのを食堂でお手伝いしていた。

「悪いなあ、いつも手伝いしてもらって」

「いえいえ私も勉強になるので」

私は土井先生の影響もあって教師になりたいと思うようになっていた。

「お熱いですね」

声のした方を見ると仙蔵が食堂の入り口でもたれて此方を見ていた。ちなみに仙蔵とは数少ない同期の生徒である。6年になると特に女子は少ないため学年が上がるごとに自然と話すこと機会も増える。

先生が急に咳き込む。

「こらこら、教師をからかうな仙蔵」

「そうだよ、仙蔵。そんな言い方したら先生に失礼だよ」

「あの弱気だったナマエが反発するようになったとは涙ぐましいな」

「う、うるさい」

「おやおや、声が大きくなるのは土井先生のことを言われた時だけか?」

「なっ!?」

「こらこら、やめないか。お前たち」

その時、食堂の扉からもう一人ひょっこりと顔を出した。

「土井先生〜!ここにいたんですか」

私の友人のオダマキだ。先生の横に座ってにこにこと見つめている。

「あ!そーだ。さっき小平太がナマエのこと探してたよ」

「え、なんだろう」

「分かんない!直接聞いてみれば?」

「で、でも採点途中だから」

「私が代わりにやるよ!いいでしょ?先生」

「あ、ああ。時間があればでいいよ」

「やったあ!」

「そ、そう。じゃあ私いってくる」

私は逃げるように食堂を出た。仙蔵が追いかけてきて華麗に私の前に飛び立った。

「お前それでいいのか」

「何が?」

「分かってるんだろ。あいつ土井先生のこと」

「言わないで」

私は仙蔵を睨んだ。仙蔵の眉間にシワが寄る。そりゃそうだ。仙蔵は良心でしてるんだから。

「私はあいつが嫌いだ」

「それでも私の友達なの」

私は仙蔵の横を通り過ぎる。しかし、腕を掴んで引き止められた。

「お前はあいつ以外の気持ちを考えたことないのか?」

「仙蔵」

「それに、私の気持ちもどこへ向かえば」「おーい!!」

声のした方には小平太がいた。

「こんなとこで何してんだ二人とも。あと長次見てないか?ずっとさがしてんだけどな」

「さあな」

仙蔵は怒った様子で小平太の横を通り過ぎていった。

「なあに怒ってんだ?仙蔵のやつ」

「……」


それから一週間後のことだった。突然の任務だった。密書の配達。六年になればザラにそんな任務はあった。私は難なくと任務をこなした。その帰りのことだった。雨が突然激しく降り出して落雷もなり始めた。私は急いで帰路につく。何せ今日はオダマキの誕生日だったから。夜が明ける前におめでとうと言いたかった。

轟々ととどろく川ノ上の橋を駆け抜けた。ギシリ。鈍い音が足元からしたと思ったら急に足元の板が抜けた。私の手は間一髪近くのヘリをつかむ。雨のせいで手が滑りそうだ。私の体は思うように動かない。昨日の夜から体調が優れなかったのだ。

「だ、れか」

当たり前だがごうごうと風とふき、雨が叩きつけるだけで誰もいない。落雷がなる。私の手が滑り落ちた。

「あぁ!!」

「ナマエ」

誰かが私の手を掴む。誰?ぼんやりとする頭をあげる。そこにいたのは

「オダマキ?」

「やっと見つけた」

「もしかして探して」

「そうよ。有難うって言いたくてさ。私意地悪くて友達が出来なかったけどお人好しのあんたが何時も側にいてくれたじゃない?ほら私って特殊な性癖のせいで友達いないから。都合良くあんたみたいなのがいて助かったの。まああんたも友達できなかったみたいだけどさ」

「オダマキ……」

「でも、今日でおわりだね。私、あんたの好きな土井先生がほしくなっちゃったの。本当はあんたが生きてるうちに欲しかったんだけどさ、先生中々落ちてくんないんだよね。だからさ、考えたんだ。傷心した先生の心に付け込めば手に入るのかなって。ごめんねナマエ、昨日飲んだお茶はまずかったよね?毒入りだったもの。」

「やめて、オダマキ、お願い」

「ごめん、本当に。私人のものは何としてでも手に入れたいんだよね」

「いやだ、いやだ、しにたくない」

「あなたの分も私が土井先生を愛してあげるね」

手首を掴んでいたオダマキの手が離れる。私の手は空虚だけを掴んだ。ひどい、ひどいよ。



冷たい水の中。最後に思い出すのは貴方との記憶。あの暗い穴蔵から助け出してくれたこと。私の誰にも聞こえなかった声をただ一人、貴方だけが聞いてくれたこと。こっそり練り物を食べれば本当に嬉しそうに感謝の言葉を述べたこと。お手伝いをしたあとは何時も撫でてくれた貴方の手のひら。すきって伝えれば良かった?ううん、お側に入れただけで幸せだった。貴方に出会ってなかったら私の人生、すごくツマラナイモノになってたの。ありがとう、先生。それから大好き。

20160318
※オダマキ…花言葉は必ず手に入れる
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