※現パロ


そわそわそわ

トイレの鏡を前に自分のファッションをチェック。うん、大丈夫。変じゃない。パステルカラーのニットにロングスカート。気合いも入り過ぎに見えない。ああ前髪大丈夫かな。何で今日に限ってこんなに元気なんだろ。少し浮いてる前髪を恨めしく撫で付ける。ピンク色のリップがはみ出てない事を確認して。もう一度グロスを丁寧に塗り直した。

手元の時計を見る。

やば!もう7時になる。慌ててトイレをでて待ち合わせの駅の前に立つ。スマホでもう一度時間を確認。59分。

新着のメッセージのお知らせと新しく表示された。私はドキドキする胸を押さえてアプリを開く。

『2番出口の前いる』

『どこいる?』

私は少し震える手で慌てて打つ。3番出口のとこだよ!っと。

『今行く』

わあ。
私はとっさに前髪を整えた。ああ、やっぱり白のブラウスにするべきだったかも。変じゃないかな今日の格好。

三郎先輩が遠くから走ってくる姿が見える。私は手を軽く振った。それに気づいて三郎先輩がこっちにきた。少し息を切らせたところにキュンとした。あー、私のために走ってきてくれたんだ。

「すまない。ちゃんと出口決めればよかった」

「そんなこと無いですよ。すぐ会えましたし!」

「そうだな。じゃあ行くか」

二人で道を並んで歩く。何だか嬉しい。周りから見たらカップルに見えたりするのかな?そっと三郎先輩を見る。お店の街頭に照らされた三郎先輩の横顔がかっこよくて、また緊張してきた。ふいに三郎先輩がこっちをみる。あっ見てるのばれたかも。

「ナマエ、酒は飲めるんだったよな」

「あ、はい!」

「よかった。よく行く居酒屋があってな。そこが落ち着いてるし、飯も美味いから連れてこうと思ってたんだ。」

三郎先輩の行きつけってことだよね。そんなとこに私を連れてってくれるんだ。

「小洒落た店とか綺麗な夜景見るのもいいんだろうがな、ゆっくり話しながら食べたいと思って」

その一言でいろいろ考えてくれたんだろうなとわかって自然と微笑んでしまった。三郎先輩も私の表情に安心したように微笑み返した。

「ここだ」

三郎先輩がドアを開けて私を先に通した。大衆居酒屋のようなとこを想像していたけど。綺麗な和食居酒屋だった。すぐに店員さんがテーブル席に案内してくれる。

メニューをひらくと沢山の料理があって目移りした。

「何か食いたいもんあるか?」

「えーと、おすすめとかあったりしますか?」

「この天ぷらとか美味いぞ」

「じゃあ、それ食べたいです!」

「ふふ、じゃあ後は適当に私が頼むな。ドリンク決めておけよ」

三郎先輩ってば頼もしい。店員さんにさらさらと注文している姿がまたかっこいい。

「ドリンクはいかがなさいますか?」

「私は生で。ナマエは?」

「私も生で!」

「おい、気を使わなくていいぞ?カクテルとかじゃなくていいのか」

「生な気分なんです!」

私は意気込んで言った。三郎先輩が吹き出して優しい表情で笑う。ああ、この笑顔超好きなんだよな。

「生お二つでよろしいですか?」

「はい!お願いします」

店員さんが少し困ったような顔をしていたので慌てて言う。

「今日のナマエの飲みっぷりが楽しみだな」

「いやいやいや!そんな飲みませんから」

「いいんだぞー。今日はゆっくり介護してやるからなー」

「ばか!」

「ははは」

お酒が入るとまた一段と話が弾んだ。地元の話、友達の話、将来の話。はあ、すっごく楽しい。ついつい沢山しゃべっちゃう。先輩ひいてないかな。ちらっと顔をうかがうように見ると上機嫌な顔の先輩に安心する。

「こちらホルモンでございます」

「ありがとうございます」

先輩がホルモンをつついてひょいっと口の中に入れた。

「これがすごい美味いんだ、ほら食え」

先輩がずいっと皿を出す。私はギクリとした。ホルモン苦手なんだよな。でも先輩の手前断れないし、先輩が好きなものなら食べたい!今日はきっと食べれる!うん!

ホルモンの串を掴んで一口咀嚼する。あー、やっぱり苦手だった。このグニャグニャ感。

「うまいか?」

「あ、はい!う、うまいです」

先輩がじーっと私を見る。

「な、何ですか?」

「ホルモンあんまり好きじゃないか?」

ぎくっ

「そんなことは」

「牛スジは好きか?」

「はい!!好きです!!」

私の好物だ。

「よしよし!たくさん食え!」

三郎先輩が牛スジの入った小鉢を私の方に寄せた。代わりにホルモンのお皿を自分の方にもっていく。

「…何で分かるんですか?」

「私に嘘はダメだぞナマエ。はっきり言うんだ。気は使うな。」

やばい。何で私のこと分かってくれてるの。三郎先輩って本当にすごい。ますます惚れそう。

「ごめんなさい」

「気にするな!ナマエの分も私が食うからな」

私のお皿からホルモンの串を持って行ってぱくぱくと食べていく先輩。きゅん

「お?三郎?」

その時、後ろから2人組の男の人が来た。
三郎先輩はその2人を見るとげっとした顔をした。知り合いかな?

「うわ!何だよ!可愛い子つれてデートか?それにしても居酒屋って色気ねーな!」

「よりによって私達の行きつけの店に誘うとはな」

「うるさい。ハチ、兵助」

「???、こんにちは」

その後、三郎先輩に紹介してもらった。古くからの友達のハチさんと兵助さん。よく連んでいる中の2人らしい。2人とも当然のごとく私たちと同じテーブル席に腰を下ろしてビールと枝豆、豆腐を頼んでいた。三郎先輩が一生懸命他の席へやろうとしていたものの2人は動く気はなさそうだった。

結局、4人でわいわいとお話をした。最初は不満そうな三郎先輩だったけど、どんどん楽しそうにハチさんをからかったり、兵助さんもそれに加わっていた。先輩ってば友達のこと大好きなんだな。こんな姿が見れて嬉しいな。

三郎先輩がトイレに席を立つ。私は少し緊張した。おふた方はにやにやと私を見ていた。

「ふたりは付き合ってどれくらいなの?」

ハチさんがさらっと聞いてくる。

「い、いえ。私達、付き合ってないです」

「ほんとか?」

「はい」

「何だ。この店に連れてくるってことはそういうことなのかと思った」

兵助さんがズバッと言う。

「おいコラ兵助!ごめんな。こいつに悪気はないんだ」

「大丈夫ですよ」

「ただ本当に驚いたんだ。昔から仲良いんだけどな。あいつ、この店に他のやつ連れてきたことなかったからさ。俺らが他のやつ連れてくると不機嫌そうにするし」

ハチさんが苦笑する。

「ナマエちゃんはトクベツなんだろうな」

胸がきゅっと締まった気がした。そんなこと言われたら期待しちゃうじゃないですか。大切にしてくれてるって。

「おい、ナマエ。そろそろ帰らないと遅くなるだろう。送るから出るぞ」

「え!いいですよ。先輩まだお友達と積もる話もあるでしょうし」

「いいよ。こいつらは勝手に席居座っただけだし」

「そうそう。俺らが居座っただけだから三郎に送らせてやって」

「送り狼になるなよ三郎」

「うるさいハチ、兵助」

お店をでてきた時と同じように肩を並べて歩く。行きに比べて自然と距離は近くなっていた。つんっと触れる三郎先輩の手があつい。私が「先輩の手あついですね」と言うと先輩が「そうか?」と返した。大きな手が私の手を包む。

「本当だ。あついな」

先輩がいたずらっぽく言う。鼓動が高鳴る。

「今日はありがとうな」

「私のほうこそありがとうございます。すごく楽しくて飲みすぎちゃいました。こんなに飲んだの初めてかも」

「そうかそうか。私の前だけにしとけよ。私はちゃんと介護してやるからな」

おかしくって嬉しくって三郎先輩を見上げて笑った。そんな私を見て先輩も笑う。先輩がゆっくりしゃがんで私の耳元で言った。

「私は全部本気だぞ。お前のことが好きだからな。」

先輩の肩越しに見える星がいつもよりも輝いて見える。ああ、この胸の鼓動の音が全部先輩にまで届けばいいのに。そうしたら、きっと私がどれだけ先輩のことを想っているか少しは通じるに違いない。
20160214
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