「どうしたの?急に。」

愛しいとそう思った。高い声、温かい手、彼女全てが優しい。正面からじっとナマエがこちらを見ている。俺は彼女を抱きしめた。小さくて華奢だ。

「勘右衛門?」

「例の任務が決まったんだ。明日から。」

彼女がピクリと反応する。

「そっかぁ。ついに勘右衛門もか。」

彼女の細い腕が優しく俺の腰を抱きしめた。一緒に心も掴まれたみたいに苦しい。彼女の顔が俺のまな板にぐりぐりと埋められる。「 痛い 」と言うと「 我慢して 」と言われてしまった。なんとなくおかしく思えて笑うと、彼女も肩を震わせて笑った。不意に彼女の笑顔が見たくなって頬を掴んで上へ向けると、ひどい顔がこちらを見ていた。

「ひどい顔。」

「やめてよ。」

彼女が体ごとそっぽを向く。俺は苦笑いしてどうしたものかと考えた。大丈夫そうに見えたのに結構こたえていたなんて、気づかなかった。実は本当は俺も彼女と一緒に泣いてしまいたかったんだ。奇遇だなぁ。そうしたら、この底抜けな悲しみが幾分ましになるかもしれない。でも、そんなことしたって彼女はちっとも救われないんだよなぁ。

「悪かったよ、こっちを向いて。」

「やだ。」

震えた声のあとに聞こえたのは嗚咽だった。我慢しようとしてるのは伝わるがバレバレだ。本当に馬鹿だな。だからほっとけないんだよ。君の涙をふくのは絶対に俺だけなんだから。彼女を後ろから抱きしめる。相変わらず胸は苦しい。

「すき、勘右衛門。すき。」

「うん。僕も大好き。」

「もっと一緒にいたいな。」

「一緒だよ。これからもずっと。」

彼女が驚いた顔をして。こちらを見る。それから優しく微笑んだ。ああ、よかった。笑ってくれた。俺はこの笑顔が一等好きなんだ。

「ずっと?」

「ずっと。」

「嘘つき。」

彼女は笑顔のまま言う。

「ばれたか。」

僕も笑顔のまま言う。

「ずっとなんてあるわけない。私たちの世界に。」

「それでもナマエが笑ってくれるなら嘘でもいいんだ。」


最期に思い出したのはこの記憶だった。辺り一面は真っ赤に燃えていて、腹の痛みを感じなくなってきていた。全く最後の最期になんでこんな昔の事を思い出したんだろうか。自分に呆れてくる。これもまた戒めなんだろうか。
ゆっくりと重い瞼を閉じる。穏やかな暗闇が朦朧とした意識を眠気へ引きずっていく。


ねえ勘右衛門、地獄や天国がもしあるとしたら、私はそこであなたに会えるのかしら。不思議とね、今は死ぬことだって怖くないの。
そういえば、あなたは最後に私に嘘をついたね。ずっと一緒だって。でもね、よく考えたら嘘じゃなかったの。あなたはずうっと私の心の中にいた。私が死ぬまでずっとずっと。だからね、謝りたかったの。あの時、本当はあなたも泣きたかったんだよね。ごめんね、わがままな私で。

いまいくからね
やさしい あなた
20131019
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