※197197の続きなので分からないところあるかもしれません
※恋愛要素は殆ど皆無です
1つしたの妹がいた。僕らは驚くほど似ていなくて、妹は瞳の色も髪もブラックでどこかミステリアスな雰囲気があった。時には兄の僕さえ何を考えているか分からなかった。それでも、片手で数えられる程ちいちゃな頃はよく二人で悪戯をしていた。近所でも仲良しな悪戯好き兄妹として有名だった。
しかし、歳が離れていくごとに見えない溝ができてしまった。次第にクスクスと笑いあうことも、手を繋いで家に帰ることも、二人の秘密事もなくなった。そればかりか、ホグワーツでのある事件を機に僕は彼女の目の敵になってしまった。
「ジェームズ、あの子に何とか言ってくれないかしら?今年もクリスマスは一緒に祝わないって聞かないの」
ママが眉をひそめながら僕に言う。もし、僕の一言でどうにかなっているなら、僕と妹は一緒にクリスマスツリーをアイスクリームに変えているだろう。パパもパパで新聞から顔をだしてこっちの様子を伺っている。僕が「まあ、やってみるよ」と言うと、ママはクリスマスツリーの飾り付けを再開してパパは新聞に顔を戻した。全く二人とも分かってない。
僕がため息をつきながら、二階へあがると妹の部屋のドアが小さく開いていた。いけないとは分かっていてもドアの隙間から中を伺った。
「……どうして」
ドキリとして飛び上がりそうになったが、妹は机に突っ伏して動かなかった。暫く動けずにいると微かな寝息の音がしていた。どうやら寝てしまっているらしい。少し考えたがそっとドアを開けた。別に、どうこうしようとは考えていない。ただ、あのままでは風邪をひいてしまうからブランケットをかけるだけだ。
久しぶりに入る妹の部屋は随分と女の子らしくなっていた。もうクイディッチの応援ポスターもカエルチョコのカードも落ちては居なかった。一緒にお菓子屋へでかけていたときの事もとうの昔になってしまったのだと改めて感じて、少し切なく思った。近くにあるチェックのブランケットを彼女の肩にかけた。誰かと遊んできたのだろうか、睫毛にはマスカラと髪が緩く巻いてあった。だが、寝顔の無邪気さはちいちゃな頃と変わらなくて安堵した。柔らかな髪をなでて、おでこにキスをした。
その時に机においてあったパパとママへのクリスマスカードの横にセブルス先輩へというカードも見えたが、今日は見逃す事にしておいた。
「なあ、お前らってまだ仲が悪いのか」
冬の休暇も終わり、図書館へ向かう時にシリウスがけろっとした顔で聞いた。その悪意のない表情に首を締めてやりたい衝動にかられたがリリーの笑顔を思い出すことで踏みとどまった。
「お前らって?」
「そりゃ、ナマエとジェームズのこ、イテ!何すんだジェームズ!」
「悪いね、足が滑ったよ。それから僕の妹を勝手に呼び捨てにしないでくれるかな?身籠ったらどうしてくれるんだい」
「ひどい言いようだな」
「君にはね」
シリウスは図書館へ向かう用がなかったので広間に行ってしまった。図書館へ行き本を探していると遠くから聞いたことのある声が聞こえた。
「このラブレター届けてくれないかしら?」
棚からちらりとその方向を覗くと、最近やたらと話しかけてくる女がいた。驚くことに話し相手はナマエだった。僕は咄嗟に隠れる。
「あー、でも、兄は最近ガールフレンドができたの。ほら、知ってる?あの有名な」「知ってるわよ!あの良い子ちゃんなエバンズでしょ!でも、私の気持ちはもう止まらないの!ねえ、お願いよ。今度バタービール奢るから」
「いや、でも」
「お願いよ。貴女しか頼る人がいないのよ。それとも貴女、エバンズに手回しされてるの?」
あの女。今度とっちめてやる。僕が決意をきめた所で妹のため息が聞こえてきた。
「わかったわ。届けるから貸して」
そう言った時、ふと思い出した。ホグワーツに入りたてだった頃は今みたいな事がしょっちゅうだったのに最近はなかった。こうした事があるたびに、妹は今と同じように何度も面倒事へ対応していたのだろうか。何故だか、申し訳ないような気持ちになった。
全く、不器用な妹だと思う。誰かへ甘える事を知らないから、良い顔をしようとする事もしないから、両親にもイマイチ掴み所のない子だと言われてきた。もっと、ワガママを言えば良い、困らせるくらいに周りを振り回せば良い。そうすれば、きっと僕らは離れ離れになることがなかった。ずうっと一緒にいられる事ができただろう。
しかし、それが出来なかった原因の一端に自分の鈍感さがあるのかもしれない。自分と妹は余りにも違いすぎた。妹の手が離れて一歩一歩と遠退いていってしまうのを僕はただ見ていただけだった。
ミステリアスなよめない子だと言われている裏で妹は恐れていたのかもしれない。自分と僕とが比べられる事を。
僕は、あの事件の日、ただワガママな嫉妬で彼女の初めての抵抗を踏みにじってしまった。

僕はある悪戯を思いつき、あの人物へ手紙を送った。
「ちょっと、付き合ってくれよ」
廊下で妹の腕を久しぶりに引いた時、あまりのその腕の軽さに驚いた。人気のない廊下まで来ると足を止めて妹に向き直った。
「何?」
「もういい加減に普通に接してくれないか」
「普通って何よ」
「まだあの日のこと怒っているんだろ」
「あの日って一体どの日のことを言ってるか分からないけど、私達元々仲がよかった日なんてなかったわ」
妹のあの日と変わらない瞳が僕をとらえていた。苛立ちと悲しみが胸に押し寄せてどうにかしてしまいそうだったが、この作戦を失敗させる訳にはいかない。
「まさか、まだスニベルスが好きなのか」
「!、急に何を言い出すの」
「やめておけ。あんな根暗。どこがいいんだ」
「黙りなさい!」
僕がわざと挑発的なことを言うと妹は思い描いた通りに杖を向けてきた。まだ、ここなら引き返せるかな。そう考えている自分に自嘲気味に鼻で笑った。杖の先端が僕の首にチクリとささる。
「やっぱりまだ、好きなんじゃないか」
「そうよ、あの日からずっと。だけど貴方が全部ぶち壊しにしたわ。セブルス先輩はあれから私と目さえ合わせてくれなくなった。……あなたは良いわよね。良い子のエバンズと仲良くなれて。私はきっとあの人に嫌われてしまったわ」
僕とは全く似ていない黒い瞳。いつから、この瞳に笑顔が映らなくなっていったのだろうか。哀れなほど不器用で僕とは真逆な妹。やっと兄らしいことができるのかもしれない。それでもそんなことお前は知らなくて良い。僕を疎ましく思い、もう遠慮なんかしずに自分の好きなようにすればいい。それは同時に二度と僕らが一緒に手を繋いで帰路につく事がなくなるのを意味しているけど、もうとっくにそんな可能性はゼロに等しかったのだから。
僕は彼女の頭をそっと撫でた。幸せになるんだぞ。

「エクスペリアームス!」
彼女が柱の向こうに誰かがいるのに気づいて呪文を唱える。
「そこにいるのは誰」
「ブラックじゃないか?」
そこにいる本当の人物を僕は知っているが、思い出したくはなかった。勿論、悔しいからね。それでも、僕の頬はこれから起こることを想像して自然と緩んでいくのだった。
君へ最後の悪戯だ。
誰も知らなくて良いこと
20121118
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