あなたがないているのをみて、わたし、おもわずわらっちゃったの





「ねえ、エイジ」

コロリ、としたあめ玉のように綺麗な瞳が不思議そうに僕を見つめていた。その無垢な表情に僕は少しいらいらして、呼び掛ける声をわざと聞こえないふりした。
暫くしてゴロゴロと耳障りで五月蝿い音が聞こえて、ローラーのついたチェアに腰かけた少女が飽きもせずに僕を見た。それでも僕は知らんぷりしつづけた。ぎしぎしと彼女が椅子を揺らす。その度にラズベリージャムみたいな甘い香りが香ってきて、さらに気持ちをいらいらさせた。

「泣いてもいいんだよ?」

「黙ってください。それから帰ってください。」

ぴしゃりと言ってやったのに彼女は相変わらず椅子をぎしぎしさせた。ついにいらいらが抑えきれなくなって五月蝿いの椅子を手で止めたら、彼女がきょとんとした表情になった。

「邪魔ですから」

その声はいらいらしていること隠せていなかった。それに何故だか傷ついた気持ちになる。べつに、悪いとは微塵も思ってはいない。彼女が邪魔だと思うのも帰ってほしいという思うのも全て本心なのだから。じゃあ、何でこんな気持ちになってるかって、こんな風になる予定ではなかったからだ。こんな風に、暴言を吐く予定でも、自分の怒りをさらけ出す予定でもなかった。だから、それをしてしまった自分に傷つき腹が立った。
ラズベリージャムの香りが、まだ鼻をくすぐる。彼女は読めない表情をしている。胸のあたりがひどくもやもやとした。
急に掴んでいた椅子が軽くなって、彼女が僕の後ろに回り込んだ。もしかしたら、泣いているのかもしれない。おそるおそる後ろを向こうとすると、柔らかな指が視界を暗くさせた。驚いて固まっていると耳元で 「 怒らないでね 」 と彼女が囁いた。あたたかい吐息が耳にかかって少しどぎまぎしてしまう。彼女の細い手首をつかんでどかすと彼女がにっこりと微笑んでいた。
呆気にとられてポカンとしていると彼女がくすくすと笑った。

「八つ当たりされてるって分かってるのに、何でだろう。エイジがそんな風に怒ってるとこ初めてみたから嬉しいの」

「……そんなの、かっこ悪いだけだと思いますケド」

「それでも嬉しいの。私、少しは信頼されてるんだよね」

相変わらずにっこり顔の彼女にもう苛立ちはしなかった。胸のわだかまりは溶けていって穏やかな恥ずかしさに変わる。

「やっぱり五月蝿いです」

僕の口端は気づいたらつり上がっていた。彼女も僕を見て微笑む。たまらずに目の前のラズベリージャムみたいな唇にかみついた。
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