「 馬鹿にしないでよ 」



反射的に目を閉じた。痛々しい音が、すぐそばで聞こえて鈍い傷みが右頬から身体に駆けめぐった。その傷みがまるで彼女の悲鳴のように感じて俺は暫く動けずにいた。たかが20代になったばかりの細腕の女に殴られただけなのに、ひどく狼狽してしまうなんて全くダサい。こんなとこキザな巻毛野郎に見られたら、腹を抱えて笑われるだろうな。俺は彼女の鬼よりも怖い顔を想像してゆっくりと瞼を開ける。
しかし、俺の想像は裏切られ彼女は今にも泣きそうな顔で俺を見ていた。


もしかしたら、いつかはこんな日がくるんじゃないかと思っていた。もし、万が一、その時がきたなら、一発鼻を殴ってへし折って「アンタなんかより他にも良い男はたくさんいるわ」って言ってやる予定だったのに、全くそんなことできやしなかった。
ホテルから私の後輩の女とベタベタひっつきながらでてきたのを見てから、私の心はぽっかりと大事なものがぬけたみたいに可笑しくなってる。本当は裏切るはずなんかないって思っていたかったのかも。奴を殴った手のひらは凄く痛くて、なんだか自分のほうが可哀想になってきちゃうくらいだった。
あーぁ、私の恋はもう終わり。バイバイさよなら、それなりに楽しめたわ。


殴ったのは俺じゃないのに、泣いているのはどうしてお前なんだ。いつものように五月蝿く「 最低なぐず野郎 」でも「 腐れナンパ男 」でも言えばいい。どうして、お前は、終わりだなんて言うんだ。ちゃんと俺の目を見てもう一度同じことが言えるのか。

「行くなよ」

彼女の身体を抱き上げて壁に追い込む。さっきとはうって変わってナマエは力なく俺の肩を殴る。その彼女の姿が余計に俺を弱くさせる。


ずるい。こんな風にされたら逃げれないって知ってるんだ。彼の逞しい腕が私の体を抱き上げて許しを乞うように肩に頭を預けてくる。いつもは私のことひどくからかうくせに。震える唇で私は彼にズルいと言った。彼は顔をあげて私の額に彼の額をこつんとぶつけた。「 お前を失うくらいなら、世界一カッコ悪いことだってしてやる 」いつもより低いその声が私の頭をくらくらさせる。

「 裏切り者のくせに 」

彼の舌がべろりと私の頬をなめた。ぞわりとすると同時に子宮がきゅっとしめつけられる。それでもコロネロは私の顔をまたなめる。私が「 くすぐったいから 」と言うと困ったみたいに笑った。私は彼のこの表情に弱い。堪らなくなって吹き出すとここぞとばかりに彼の唇が私の唇に重なった。優しくはさむようなキスに私はどうしようもなくドキドキしてしまう。
彼の唇がゆっくり離れる。それでも鼻と鼻の先がくっつくくらいに近い距離でコロネロが私をみつめる。


「 一応言っとくがな、あの女とは何にもなかったからな、コラ 」

「 ホテルからでてきたのに? 」

「 信じてくれるかわかんねぇけど。言い訳聞いてくれるか 」

「 ううん、いいの。私、信じるから 」

彼女がくしゃりと笑った。その顔に俺は彼女に覆い被さりたくなったが必死に堪えた。今度怒らせたらどうなるか分かんねぇ。
ああ、それにしても、これではっきりした。俺の唯一の弱点は彼女だ。彼女だけが俺をgentlemanに変える。俺を思い通りにできる。

「 なあ、抱いていいか?コラ 」

「 調子のんな変態 」
title by へそ
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