ハリーさんはナマエさんという方をお慕いしていらっしゃいます。
 ナマエさんはとても寛大で私の出会ったなかでも中々の美人さんです。何度か彼女の手紙をハリーさんへ届けたことがありますが、お手本のように綺麗な文字を書く方だと存じ上げております。私の経験からして文字が綺麗な方は、心も綺麗な方だと大概相場は決まっています。ハリーさんは良い女性を見つけました。私はとても安心しています。

 たくさんの生き物が寝静まった鬱蒼とした夜に、ハリーさんとナマエさんが一緒にいるところを見たことがありました。唇がくっついて離れてまたくっついて。二人はきっと愛し合っています。あのとき見たあついまなざしが何よりの証拠でした。なんだかちょっと嫉妬してしまうなぁ。私は自慢の真っ白な羽を広げて月へ向かって羽ばたいた。鳥だって空気をよむんですよ。

 まるで星が落ちてきそうなほど静寂で荘厳な夜でした。私の主人のハリーさんは窓から、心ここに在らずとでもいいましょうか、どこか遠くをただただぼんやりと眺めています。どうしたのですか?と鳴いてみてもハリーさんは私の住んでいる小さな籠へパンクズを寄越しただけで、質問には答えてはくれませんでした。もう一度だけ小さくホウと鳴いてみるとハリーさんは此方に顔を向けて謝りました。ごめん、ヘドウィグ。もう少しだけ待って。
 違うんです。伝えたいのはそんなことじゃないんです。

 もし、私に人のような言葉を紡ぐ声帯があれば貴方を励ましてあげられるのに。人のような手があれば貴方の背中に触れて宥めるてあげることができるのに。でも私はただのしがない梟だから、鳴くことしかできません。ホウホウ、落ち込まないでハリーさん。


「貴女が羨ましいわ、ヘドウィグ」
 ナマエさんが私を見て悲しそうに微笑む。

「もし、私が貴女になれたら彼とずっと一緒にいられるのに。ってこんなこと言ってしまったら貴女に失礼ね。ごめんなさい、ヘドウィグ。あの人からの手紙とても嬉しかったわ。すぐで悪いんだけど今度はこれを届けてくれる?」

 どうして人というものはこんなにも不器用なのでしょうか。会いたいなら自分のその手で、その声で貴女に会いたいとそう言えばいいでしょうに。私は貴女が私に託した手紙の"この任務を貴方のためにダンブルドアのために皆のために遂行するわ"の文字が本心でないのを知っています。そんな震えた足でどこに向かえましょうか。いかないでくださいとナマエさんの指を噛むけれど、私の頭を撫でてごめんなさいねと言い姿くらましをしてしまった。


 ハリーさんが冷たくなったナマエさんの肩を抱く。何度も何度も名前を呼びますが、ナマエさんは時が止まってしまったように動きません。私はこうなった人がどうなってしまったのか知っています。それは私たち生きているものが最も恐れていること。もう二度と羽を広げることも呼び掛けることも抱き締めることもできないのです。ああ、神さま、どうしてハリーさんの大事な人にご加護を与えて下さらなかったのですか。
 ハリーさんがさめざめと泣く。私は鳴き声さえあげることもできませんでした。私は狡くもこういうときに鳥でよかったと思ってしまうのです。
もし私が鳥でなくて人だったなら、ハリーさんは私に構わずに私の前で泣いてくださったでしょうか。
 こんな私をどうか許してください、ハリーさん。そして、私の前では涙を流すことを、感情を表にだすことを、我慢なさらないでくださいね。貴方は選ばれた者であると同時に、まだ若き少年なのですから。

緑の光が私を包んで視界が急にチカチカと瞬いた。光の奥でハリーさんが目を見開いて私を見ているのがみえます。ハリーさん、私のご主人さま、選ばれし者で、グリフィンドール自慢ののシーカーで、闇の防衛術の授業が得意で、親友はロンさんとハーマイオニーさんで、ナマエさんをお慕いしてらっしゃるハリーさん。どうか私のためにそんな悲しそうな顔をなさらないでください。私は貴方のお陰で今まで何不自由無く生きてこられたのですから。ハリーさんは私の自慢のご主人さまです。ただ心残りなのは貴方より先にあちら側へいってしまうことと、ナマエさんがいなくなったときに泣いているハリーさんに何一つできなかったこと。

 私はただのしがない梟ですが、愛をとてもよく知っています。それは、ハリーさんのお傍にはたくさんの愛が溢れていたからです。魂が生まれ変わって此方へ戻ってこられるとしたなら、私は何度だって貴方のお傍にいたいです。
いつもより瞼が重い。どうやら、そろそろさよならのようですね。

わたくしは、あなたのふくろうで、しあわせでした、ハリーさ
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