「これ美味しい!」

「そう…よかったわね…」

「あれ、食べないの?」

「うん。なんか、あんたの食べっぷりみてたら胃もたれしそうになってきたから」

「えー、まだまだだね!」

友人の恨めがましいような視線を無視して苺ショートに手をのばす。ちらりと周りを見るとカップルがたくさん目についた。なんだか、この雰囲気食べづらいなあ。私が「ねえ、このカフェってカップル多くない?」と聞くと、花子ちゃんは自信たっぷりな顔をして「そうよ!」と言った。はてな。私はどういうことなのかよく分からない。

「少しはあんたの恋愛意識を高めれるかなっと思って」

「えー」

「まあ、失敗ね。あんた食い気しかないもん」

花子ちゃんが私の顔を見てため息をつく。失礼な!なんで私の周りには失礼な人ばっかりなのかな!私の不満な顔から察知したのか花子ちゃんが「名前は好きな人いないの?」と聞いてきた。唐突な質問に私はもっていたフォークを盛大に落とした。

「いないよ」

「いや、そんな分かりやすい反応した後に否定されても…」

「汗ですべっただけ」

「ふーん、あんたがねぇ」

「ち、ち、違うって」

「誰だれ?」

花子ちゃんが興味津々に聞いてくる。私は悩んでいた。べつに好きとかじゃなくてかっこいいなって思ってるだけなんだけどなあ。私が考え込んでいると、花子ちゃんは「まあ、いいや。あんた観察してればそのうち分かるわ」とニッコリした。こんな風に言ってるけど、花子ちゃんは本当はすごく優しい子だって私は知っている。今だってそうだ。私の嫌なことはしないでくれる。

「あ、そういえば明日ひまなら、遊園地行かない?」

「ごめんね。明日から出かける予定があるの」

「そうなの?いろんな人来るのになぁ」

「いろんな人?」

「うん。伊藤がたくさん声かけてんだって」

「へー。伊藤くんなら分かる気がする」

「あはは。伊藤だからね。なんでも池沢くんも誘ったとか」

「い、池沢くんを!?」

それなら行きたかった!また一緒に話したかったし。花子ちゃんは私の異常な反応に驚きながらも納得してるようだった。

「うん。驚きだよね。断られたらしいけど」

池沢くんはやっぱり池沢くんだよねー、と花子ちゃんがよく分からない例えをした。花子ちゃんの話に頷きながらも、私は少しだけホッとしている。かずまくんは行かないんだ。たしかに、遊園地で遊ぶイメージとかないかも。想像すると少し笑えて小さく噴きだすと、花子ちゃんがじーっとこっちを見てた。

「ふーん。そんなあからさまな行動とられると、こっちも気づいちゃうよね」

「あ、違っ」

「お馬鹿だなぁ、名前って」

そう言って笑う花子ちゃんの顔は優しくて、本当に良い友達を持ったなと感じた。

「秘密、だからね」
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