「名前、手が止まってるわよ」

「あ!はい!」

私があわてて手を動かすと直美お姉さんが首をかしげた。

「何か考えごと?」

「えーっとですね……考えごとというか」

「あー、かずまのこととかね」

「ち、ちがいますよ!」

「わっかりやす〜い」

直美お姉さんが私のほうを見てにたにた笑う。いやですね。たしかに私はかずまくんのことを本当に本当にすこしばかりは考えていたかもしれないですけどね。そんなあからさまに分かりやすい人間じゃないと自分で思っています。

「かずまと喧嘩したときも分かりやすいくらいに落ち込んでたものね」

「!!、そんっなっけ、ことないです!」

さも可笑しそうに直美さんが声をあげて笑う。私は頭から火が出そうなくらいに恥ずかしくなってうつむいた。

「私ってそんなに分かりやすいですか?」

「そうね。分かりやすいわ」

「はぁ……」

「いいじゃない。それだから大おばちゃんも名前のことをかずまのお」

ドンッと大きな音と誰かの怒鳴り声で直美さんの言葉が遮られる。何を言おうとしていたんだろう……じゃなくて!

「直美お姉さん」

「…どうしたのかしらね」

直美さんを見ると直美さんも心配そうな表情で怒鳴り声がしたほうに目を向けていた。なんだか胸騒ぎがするのは私だけじゃないみたいだ。

「名前、少し様子を見に行くわよ」

「はい」

どうかこれ以上不幸なことが起こらないで。
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