「ただいま!」

玄関を開けて大声を出すとお母さんがリビングから顔をだした。

「随分遅かったわね」

そう?私が荷物を渡しながら言うと、お母さんが「なんか良いことあったの」と聞いてきた。そんなに私って分かりやすいかな。なんでもないよって言って逃げようとしたらお母さんが私の腕を掴んだ。ぎくっ。

「まさか、余計なもの買ったんじゃないでしょうね」

「そんなことしないよ!」

「えー、じゃあなによ」

お母さんが目を細めて私を見る。そんなに疑われるようかことをした記憶はございません!「あっまさか恋?」お母さんがニヤニヤ笑って私を見た。そんなわけないって言い訳をしようとした瞬間。お母さんは真顔で「それはないか。あんただしね」と呟いた。失礼極まりないよ。ホント。「そんなことないです!」って腕を振りほどくとお母さんは「強がらなくても」と、哀れにに満ちた目で私を見た。

「うるさいなぁ!」

腹がたったから、わざとどんどん足音をたてて廊下を歩いてやった。そしたら、頭をバシンって叩かれた。て、手加減ない。

「あ、そうそう」

「何?」

「お泊りの準備しときなさいよ」

「え?」

「ほら、明後日はばあちゃんの」

ああ、そうだった。また今年も三重のおばあちゃんの家にお墓参りに行くんだ。少しだけ、少しだけだけど憂鬱になった。だって三重にいる親戚は大人ばっかりだし、なんだかつまらない。

「三重かぁ」

「え?」

お母さんが驚いた顔で私を見る。逆に「え?」って気持ちでいっぱいだけども。

「私言わなかったっけ。名前は長野に行くって」

「え、聞いてない聞いてないっ!私だけ!?」

「じゃあ今言った」

お母さんが悪びれた様子もなく言った。

「意味わかんないよ!なんで…」

「それがさぁ、兄ちゃん今自衛隊にいるでしょ?兄ちゃんさ、自衛隊の陣内先輩って人に気に入られちゃってね。なんでも、陣内家ってとこのおばあちゃんが誕生会開くんだけどその手伝いに参加してくれないかって言われて…」

「それと私に何の関係があるの」

「そこからなのよ、昨日兄ちゃん全身に骨折しちゃったんだってさ。それで現在入院中」

「え!?」

何それ。初耳なんだけど。それ以前にサラっと話すお母さんがある意味怖いよ。

「でさー、退院が二週間後なのよね。治ったころにはもう、誕生会終わってるわ。それで、兄ちゃんの代わりに名前ちゃんがってわけ」

「無理無理無理!断ればいいじゃん」

「それが、実は陣内さんって私の昔の恩師だったのよ。どうせ、三重いても暇でしょ。あんた、あっち行っても寝てばっかいるし」

「うぐぐ、それはそうだけど。てか、お母さんの恩師なら自分で手伝いに行けばいいじゃん!」

「たった4日間頑張るだけで5000円よ。悪くないでしょ?」

お母さんの悪魔のような囁きによって。私は折れることにした。べつに5000円につられたわけじゃないよ!
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