とまとがいっこ、にこ、さんこ、よんこ、ごこ、ななこ、きゅうこ、じゅっこ!

「よし、収穫完了」

真っ赤に熟れた光る宝石みたいなトマトをカゴに10個詰め込んだ。カゴは太陽の光を浴びてより一層おいそうに輝きをはなっている。

よっこらしょ、掛け声とともにカゴを持ち上げると予想外に重くふらついた。実がずっしり詰まっている証拠だね。

両手にカゴを抱えたままサンダルを脱ぎすてる。鼻息が荒く縁側に登ればバランスを崩して左によろけた。赤い実がひとつカゴから滑り落ちる。

「ああ!」

咄嗟に目をつむったものの。べちゃり、という残酷な音はいつまでもしなくて、それと引き換えに頭にゆるやかな衝撃がはしった。

「お前、足元みろよな」

「は!」

驚いて目を開ければいつかのセクハラお兄さんが呆れ顔でこちらをみていた。右手には無傷のトマトが握られている。

「ナイスキャッチですセク……お兄さん!」

「ナイスキャッチじゃねーよ」

ばこん、頭が鈍い音をたてた。

「痛っ、さっきから人をバコバコバコバコ殴らないでください!」

「はいはい、こんどはちゃんと足元みろよ」

赤いトマトがもう一度カゴに戻る。無事に生還おめでとう!とまとちゃん!

「あ、そういえばお兄さん何て名前なんですか」

「……、……佗助だ」

「なんですか、その微妙な間」

シシシッと佗助さんが悪巧みしてるみたいに笑う。なんか少しかずまくんに似てるんだよなぁ…。

「暇なら手伝ってくださいよ!」

「いやだね」

「佗助さんってひねくれてる」

「うるせえ」

目を細めて佗助さんを見たら、彼は吹き出して「ぶさいくな顔」と私のおでこを小突いた。なんて失礼なんだ。

「なんか、夏希の小さい頃を思い出すな」

「ええ!」

「何にやけてんだよ」

「秘密です」

「変なやつ」

くるりと回れ右して佗助さんが私の進行方向と反対に歩いていく。

「佗助さん!」

「あ?」

微妙な顔で佗助さんが振り返る。普通にしてればイケメンなのにね佗助さん。

「おばあちゃんのこと、大切にしてくださいね」

私の言葉に佗助さんは目を丸くした。にやっと私が笑うと彼は鼻で笑ってまた歩き出していった。






▼蕃茄は漢字でトマト
久しぶりに回転木馬らしいお話が書けた
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