「ラブマシーン?」

「そう、ラブマシーン」

かずまくんが真剣な顔で頷く。さらり、彼の耳にかかっていた長い前髪が重力に負けて下へ落ちた。

「それが原因なの?」

「あぁ」

夏希さんと翔太さんは疑問と納得と半々の顔で頷いていた。その横で健二さんは気の毒に成る程青い顔をしている。私には何の話なのかさっぱりピーマンであった。(死語かな)



翔太さんが「やっぱりお前を逮捕する」と健二さんに掴みかかる。慌てて夏希さんがそれを止めにはいった。

その時、

「――これは、あれだね」

敵に攻め込まれてるみたいだね、大おばあちゃんの凜とした声が、納戸に響いた。

大おばあちゃんは私達を一喝すると、自分の寝室へ行き、手帳と電話を手繰り寄せていた。

「由美ちゃんアンタが仕事を引退したのは…」「アンタならできる!諦めんじゃないよ!」「慌てなさんな、柏木さん。アンタが慌てて…」「一つ一つ自分のできることをやれば…」

大おばあちゃんの励ましでたくさんの人が動き出した。すごい、私も、私ができることを――

「僕も、自分にできることをやらなきゃ」

健二さんの方を見ると、今までにない真剣な顔つきで決意したようにどこかへ走りだした。



□□□




「ふぅ……」

私は畑の前に腰を下ろした。地面は熱を含んでいて生暖かい。その生暖かさが心にじんわりと染みた。

きっと、もうすぐ晩ご飯を作る準備をして、今日あった大変な出来事について話すのだろうな。

「役立たずだなあ、私」

べつに、落ち込んでるわけでも拗ねているわけでもない。ただ圧倒された。健二さんの芯の強さに、大おばあちゃんの偉大さに、夏希さんの嬉しそうな顔に、かずまくんの冷静な物事の考え方に。私はただ自分が被害をうけなかったことにホッとしていただけだ。

「名前」

落ち着いたかずまくんの声が後ろから聞こえる。

「…泣いてるの?」

顔を左右に振る。静かな足音がして、かずまくんの顔が目の前にあらわれた。いきなりのことに驚いて私の体は後ろへのけ反らせた。

「本当だ、泣いてない」

「あたりまえだよ」

まだ心臓がばくばくしていて、両手で胸をおさえつける。かずまくんは心臓に悪い(いろんな意味で)。

「考え込む必要なんてないんじゃない」

「え?」

「どんせ一人で考えても良い答えなんてでないでしょ」

かずまくんの方を向けば予想外にも真剣な表情と目が合った。大人っぽいかずまくんに場違いにもかっこいいと呟いてしまいそうになる。


しかし、次の瞬間には、

「痛!痛たたたた!頭わしづかみにしないでえええ!」

「ごめんごめん」

「全然悪いと思ってないでしょ!」




でもね、助かったよ、かずまくん
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