「かずまくん!」

息を切らせながら納戸を開ければいつも通り(まだ1日しかいないんだけど)かずまくんがそこにいて少し安堵した。かずまくんは戸惑った顔で私を見ている。

唾をひとつ飲み込んで胸いっぱいに大きく深呼吸する。逃げてばっかじゃいられないもの名字名前!

「私はかずまくんが冗談でキスしたかと思ってた」

驚いたように見開かれた目は私を捕らえたあと、下へと逸らされた。

「あのね、私にとってかずまくんは特別な人なの」

納戸へ一歩足をかけるとかずまくんが「来るな!」と怒鳴った。それに、怯んだかのように私の足はぴたりと動かなくなる。

「だからなんだよ、キスされたのが悲しくなったのは」

汗ばむ手が気持ち悪い。それでも今すぐかずまくんの隣に行きたかった。今心の中にある気持ちを全部全部伝えたい。
そっと足を前に動かす。

「冗談でキスなんかしない…」

褐色の細い両腕が私の方へ伸ばされて首に巻き付いた。

「もう、僕を見てくれないと思った」

いつものかずまくんらしくない発言に、私の心がきゅっと縮こまった。腕から伝わる体温は安心よりもドキドキをくれた。

「ね、それって名前が僕を好きってことだと思っていいんだよね?」

耳元にいつもより低い声が響く。その瞬間、熱い血液が体中を駆け巡っているような気がした。

「…うん」

「ちゃんと言ってほしい」

「わ、私は、かずまくんのことが、す」

熱い、熱い熱い。いつもよりさらに呂律がまわらなくなる。それでもかずまくんは一字一字をちゃんと聞いていてくれる。

「ねえ!かずま!パソコン使…」

「どうしたんですか夏希さ…」



私が言いかけた言葉は健二さんと夏希さん、翔太さんの登場により中断になってしまった。

夏希さんと健二さんは申し訳なさそうに私とかずまくんを交互に見ている。翔太さんは何が起きていたのかちっとも分からないようで、暇そうにモニターを覗いていた。かずまくんは苛々した様子でパソコンを淡々と操作している。もちろん私はまだ火照った顔で俯く。

あんなとこ見られるなんて恥ずかしい……







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