「ひどいよ、かずまくん……」
名前の目はゆるゆると潤んで、今にも涙が落ちてしまいそうだ。なんでそんな顔するんだよ。
「こんなこと一生しないで!」
「どうして」
「どうしてって?自分の胸に聞いてみてよ!」
彼女をつかんでいた手は爪をたてられて、はなれていった。
「僕のことが嫌い?」
少しの沈黙のあと、途切れ途切れに名前が言った。
「今のかずまくんは大嫌い」
頭を鈍器で殴られたかのような気持ちになる。
今のかずまくんはってどういうことだよ。僕には名前を好きでいちゃいけないってことかよ。
「私はかずまくんのこと」「わかった」
遠くから子供達の笑い声が聞こえる。僕が何もしなかったら、昨日みたいに名前は笑っていたのかな。
だけど、
「僕は名前が好きだ。でも名前がいやだったなら、もう忘れる」
大きく見開かれた両目が僕を見ていた。何を驚く必要があるんだよ。これが、名前の望んだことじゃないっていうのなら、他にどうすればいいんだよ。
騒音みたいな煩い感情がぐるぐると心を掻き乱している。それが、あまりにも苦しくて、逃げるように納戸へ走った。
途中で呼び止める声が聞こえたけど、とても振り返る気にはなれなかった。
ずるい。僕だけがこんな気持ちになるなんて。
いくらOZが強くたって欲しいものは手に入らないじゃないか。
理不尽なことばかり考えてるなんて、自分でよく分かってる。それでも、いくらパソコンのモニターとにらめっこしてみたって、文字の羅列に目を通してみたって、気が紛れやしないんだ。頭の端の端では名前のことばかり考えてる。それくらいに好きだった。
だから、あんな反応されたことがすごくショックだったんだ。
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