「あーっと、……健二さん大丈夫かな?かずまくん」
朝食を終えたあと、かずまくんに呼ばれて二人で縁側に腰をおろす。この体内の暑さが夏のせいだけじゃないことを私は分かっていた。
それにしても、ここにきてから軽く30分は経っている。いつになったらかずまくんは口をひらくのか。
「昨日のこと、どう思ってるの?」
やっとかずまくんから出た言葉はどういうことか理解できなかった。
「え?」
「僕は悪いとは思ってないから」
き、昨日のこと?昨日って私がかずまくんを怒らしたんじゃなかったっけ?謝った気がするけど。もしかして記憶がないのはその部分じゃ……
「ねえ」
「は、はい!」
「だから、昨日のこと、どう思ってるかって聞いてんの」
「…昨日ですか」
「目がすっごい泳いでるけど」
「いや、違う、大丈夫、覚えてる」
「は?」
全神経を頭に集中してみるけど、やっぱり昨日のことなんてひとつも思い出せなかった。これは素直に言うべきか。でも、なんかシリアスな内容っぽいし、そんなこと言ったらまた怒られるかも。
「おーい、名前!」
理一さんが奥の廊下からこっちへ歩み寄ってくる。た、助かった。これで話を違う方向へもってけば、
「昨日の記憶が抜けてるって聞いたけど大丈夫か?……って、お取り込み中だったか。ハハ、悪い悪い」
理一さんは爽やかに笑うと、また元の道へ引き返して行った。ちょ、理一さぁぁあああぁん!
「…名前」
横からいつもにも増して低い声が聞こえる。ああ、なんていうか、気温が下がっていくのが分かります。
「記憶がないってどういうこと?」
ちらりとかずまくんの方を向けば、あきらかに不満そうな顔をしていた。見なければよかった。
「ご、めん…な……さ」
「べつに良いよ。なんかおかしいな、とは思ったから」
優しいお言葉とは逆にかずまくんがじりじりと私に近づいてくる。ひぃぃ、もしかして背負い投げとか巴投げとかされるんじゃ!?私は無意識のうちにぐっと目を閉じた。
「かわいい」
驚いて目を開ければ。ドアップなかずまくんの顔と、おでこに柔らかい感触がした。
「か、ずまくん」
「何?」
「わけわかんないよ……」
「わかんなくていいよ」
捕まれた腕は振りほどけないくらい強い力で握られていた。ああ、思い出した。私は昨日かずまくんにキスされたんだ……
思い出した瞬間、くらくらと眩暈がして、涙がでそうになった。
思考停止3秒前。
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