残念ながら料理が下手くそな私は、万里子さん達のお手伝いを言われた通りにうまくこなせず(何しに来たんだっけ私)、陣内家の皆を起こしてきて!という別の指名を与えられました。といっても皆早起きだから、あまり私が行く必要がない気もするけど……

否!そんな考えノットノット!私は気合いを入れて胸を叩いた。そして、強く叩きすぎて即座にむせる。弱い、弱すぎるよ私。

「!」

げんなりして廊下を歩いていると前方に見覚えのある人物が見えた。あの猫背な背中は、多分

「……健二さん?」

「うぉああ!って名前ちゃん!?」

「どうかしたんですか?」

「いや、あの、ちょっと」

「?」

健二さんは目を泳がして大分焦っているようだった。

「そ、そうだ!かずまくんを探してて」

「じゃあ一緒に行きましょう」

「えぇ!?」

「私、皆を起こして回ってて、あとかずまくんだけなんです」

「そ、そ、そうなんだ!うん、じゃ、じゃあ行こうか」

「はい」



なんだか、今日の健二さんはちょっと可笑しい。初めて会ったときは、もう少し落ち着いた人だと思ったんだけど。何かあったのかな。たくさん知らない人達に囲まれて夏希さんとの結婚に自信を無くしてるとか。ハッ、だとしたら私が健二さんの相談相手になるべきじゃ!

「け、健二さん!何か悩みがあるな」

「あそこだ!」

「わ、ちょっと待ってください健二さん!」

「こっちこっち、名前ちゃん」

健二さんが腕を掴んでぐいぐいと引っ張る。あれれ、私昨日からあっちこっちと連れてかれてばっかじゃないかな。

右腕を引かれながらもよたよたとついて行くと見覚えのある廊下へ差し掛かる。あぁ、そうだ。私は昨日もここに来た。足がもつれて転びそうになるのを堪えながら、二人して納戸の中へ転がり込んだ。

「パソコン、貸してくれないかな!」

「……これ、お兄さんがやったの?」

かずまくんがパソコンをこちらへ傾ける。モニターを覗きこんでみると“OZをハッキングしたのは高校生!?”という、いかにもニュースの記事な見出しがでかでかと目についた。だけど、1番驚いたのは容疑者の写真がとても見知った人であったこと。

びっくりして横へ振り向くと彼は苦い顔で否定した。そうだよね、健二さんがこんなことするわけがない。

「ねえ、あのさ」

かずまくんが健二さんに声をかける。心なしか声がいつもより低い。

「え、何?」

「ひとまず名前の手をはなして」

「あぁ!ごめん名前ちゃん」

「あ、いえ。私は大丈夫です」

だから、健二さんはさっきあんなに焦ってたんだ。原因が分かり苦笑をすると、不機嫌顔のかずまくんとバッチリ目があった。なんとなく気まずい気持ちになって目を逸らすと、前から小さく舌打ちが聞こえた。な、何さ!私はかずまくんの機嫌を損ねるようなこと何もしてないじゃん!

「居間に戻ります!」

あまりの態度にイライラして鼻息荒く腰をあげると、急速に左腕ががくんと重くなった。だから、モノみたいにぐいぐい引っ張らないでほしい。バランスを崩した私はかずまくんの足に手をついた。

「痛っ、何するのかずまくん」

「…あとで話がある」

かずまくんが耳元で小さく言った。何の話?そう言う前に捕まれていた左腕ははなされていて、爆発したように赤くなった私は逃げるように納戸をあとにした。






私には、認めてしまうことが何よりも難しいの。
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