「理一さん、私もう帰らないといけない気が…」

「え?聞こえない」

「かーえーりーまーしょーう!!」

只今、私は理一さんのバイクの後ろで絶賛叫び中です。あ、いやでも遊園地で聞く「キャー」とかそういうのじゃないですよ。理由はなんというか、多分理一さんが私に気をつかって連れ出してくれたんだと

「あと、もう少し走ってからね」

連れ出してくれたんだと信じたかった……。理一さんの背中の後ろで私はぐったりとうなだれていた。うぅ、べつに絶叫系が嫌いってわけでもないけど、疲れたといいますか、かずまくんに怒らそうな気がしてきたといいますか。




「名前ちゃん、着いたよ」

「え、どこにれすか?」

「……大丈夫?」

どうやら私は意識が吹っ飛んでいたらしい。(どんな状態だ)理一さんに起こされてからやっと陣内家に戻ってきたことに気づいた。ああ、なんだかここまですごく長かったような気がする。うん、気分はまるで孫悟空。



「名前!」

しみじみとしていると遠くから私の名前を呼ぶ声がした。声がした方に目を凝らすと陣内家から怖い顔をしたかずまくんがこっちに歩いてきている。いけない、すっかり忘れてた。

「かずまくん、あの」

「何してた」

「痛っ」

手首をつかまれて私は身動きできずに固まってしまった。こんなに、怖いかずまくんを初めてみた。そうだよ、私、かずまくんの怒ったとこなんて知らなかった。ど、どうすれば…

「かずま!どうしたんだ」

理一さんが私とかずまくんの間に割って入る。それでもかずまくんは私の方を強く睨んでいる。ピリピリと痛いほどの視線は私の心をにフリーズさせるのにそう時間はかからなかった。かずまくんは理一さんに目を移す。

「ふーん、僕の言うこと無視して理一さんと楽しく遊んでいたんだ」

理一さんは何のことか全く分からないという顔をしていた。それもそうだろう、私が理一さんに説明していなかったからだ。

「違っ」

「何が違うんだ!もういい、勝手にしてろ!」

かずまくんは私をもう一度睨んで家の方に歩いていってしまった。頭が痺れて麻痺したように全くはたらかない。


「すまないな、俺のせいだろう。かずまにも言っておくよ」

「いえ、大丈夫です。私が悪いかったから…」

口に出せば鼻の奥がツンとして、視界が少し歪んだ。私は泣きそうな顔を見られないようにと俯く。いつも冷静で大人なかずまくんがあんなに声を荒げていたのを見るのは初めてで。その怒りが私に向けられてることが何より1番悲しかった。

俯いたまま考え込んでいると頭にぽんっと手がのせられた。

「そういう所は兄貴そっくりだな…」

「え?」

私が驚いて見上げると理一さんは苦笑いをしてこちらを見ていた。

「あいつもな、何でも自分のせいにしようとするんだ」

「お兄ちゃんが…」

「ああ。だけどな、そんなとこ似ちゃだめだぞ」

「そんなつもりは、」

「俺にできることは一緒に悩んでやるくらいしかできないが、困ったときは誰かに話すのが1番だ」

「…ありがとうございます」

私がお辞儀をすると理一さんはふきだして「やっぱ似てないな」と立ち去っていった。




「もういい、勝手にしろ!」かずまくんの怒鳴り声が何度も頭の中で繰り返される。ちゃんと謝らなきゃ、頭では理解しているはずなのに、そう思えばそう思うほど気持ちは深く深く沈んでいった。彼はあんなにも怒っていた。本当に謝れば許してくれるの?

私のネガティブなところが顔をだして、気持ちをさらにどん底へ突き落とす。胸のどこかにぽっかりと穴が空いた感覚がして、私はただ目をつむって記憶に蓋することしかできなかった。










ここからが二人の恋のスタートです。
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