「かずま、あんたの素直な気持ちが聞きたいんだ。あの子のこと好きなのかい?」


僕が名前ことを好きだって?そんなことはあるわけがない。でも、少しくらい本音を言うなら、僕は名前に惹かれているのかもね。







まだ中学校に入学したての頃だった。僕は元々無愛想だし、誰かに話しかけることもなく一人窓の外を見つめていた。

「あの」

呼びかけられていることに気づき横を向くと、まだどこかあどけない表情の少女が立っていた。小学校のときにこんな女子いたっけ、記憶を巡らしてみるものの思い当たる人物はいないくて。じゃあ、この子は一体なんで話しかけてきたんだろうか。

「何」

僕が発したその言葉は刺を含んでいて自分でも嫌悪した。この人見知りな性格が僕は少しにくい。
彼女も不快に思っただろう。ちらっと表情伺うと、何故かとても優しい笑顔で僕の方を見ていた。意味分かんない。

「よかった。無視されたらどうしようかと思って」

予想外のことで僕は相当驚いた顔をしていたのだろう、少女は少し苦笑をしていた。

「はい、これ」

「教科書、落ちてたよ。」彼女は真新しい数学の教科書を僕に差し出た。ああ、もう授業が終わたっのか、と今更ながら気づく。細く小さな手は教科書を裏返してこう言った。

「よろしくね、…いけざわかずま、くん?」


彼女が去ってしまった後も僕はその教科書を机の中へしまわないでぼーっと眺めていた。おかしな子もいるものだな。



それからしばらくしてクラスメートの伊藤と仲良くなった。伊藤はだいぶなつっこい性格をしている。たしか中学に入って1番最初に仲良くなったのはアイツだった。名前のことも伊藤に聞いて知った。

「あいつ?ああ、名字名前か。なんかつかみ所のないやつだよな。あ、悪い意味じゃねーよ?あとは何に関しても結構一生懸命にやってるような……にしてもお前が他のやつ気にすんのも珍しいな」

べつに伊藤に言われたことは気にもならなかったし、ああ、こいつは本当に人を見ているんだなと思った。「ふーん、ありがとう」と言ったら、どや顔をされたんだっけ。


そして、スーパーで見つけたあの時、僕は何故か分からないけどチャンスと思ったんだ。だから自分から声をかけた。名前は案の定「かずまくん」と呼んだあの日のことを覚えてないみたいだったけど、それはそれではいいと思った。じゃあ、この気持ちにも区切りをつけよう、そう思っていた矢先。

「そんなことないよ!すっごい助かったもん」

僕の名前を呼んだあの時と笑顔が重なった。

「かずまでいい」

言ったのはほとんど無意識だった。

「じゃあ、私も名前って呼んでね」

そうだ、僕は彼女のことを好きとも嫌いとも見分けのつかない気持ちを抱いているんだ。少しおかしなことを言ってるようだけど、自分でもこの気持ちに整理がついていないんだから他の人に例えようがない。

でも、これだけは断言できる




「おばあちゃん、僕は名前の笑顔を見ると安心する」

「そうか」

「だから多分、…名前の笑顔が好きなのかな」

おばあちゃんはニッコリ笑うと「そうかい」と嬉しそうに言った。

「じゃあ、僕行くよ」

「ああ」













「よろしくね、かずまくん」
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