何でこんなことになっているんだろう。目の前には見るも無残な光景が広がっていた。周りを通りすぎて行く人は驚いた顔で、でも知らないふりをして通りすぎていく。私は盛大に溜息をつきながら、目の前でバラバラにちらかった荷物をひとつひとつトランクへ拾いあげた。思い返せば、私のとろさは保育園の頃からで、保育手帳には[名前ちゃんには少しドジなところがあるみたいです。]と書かれていた。少しの部分は私を考慮してのことだろう。現に今、トランクから全部飛び出た荷物が、それを物語っている。
「大丈夫?」
私がぐずぐずと荷物を拾っていると、横から知らないお姉さんに声をかけられた。わあ、美人。私が見とれているとお姉さんは散らばった荷物をひょいひょいと拾って「ハイ」と渡してくれた。私は緊張でぎこちなく「ありがとうございます」と言った。
「夏希さーん。飲み物買ってきまし…あれ、その子は」
「あ、私が転んで荷物をぶちまけちゃって…すみません」
私は顔に熱が集まるのがわかった。中学生にもなって転んでしまうなんて情けない。ちらりと前を見ると「気にしないで」とお姉さんが笑った。
「…もしかして、大おばあちゃんの誕生会の手伝いに来てくれる子ってあなた?」
「え?、と」
私は混乱していた。たしかに、おばあちゃんの誕生会のお手伝いに行けとは言われたけど、このお姉さん達については聞いてない。
「違った?ごめんね。さっきメールで中学生の女の子が来るから迎えに行ってくれないかってあったから」
「メール…あ、ちょっと待ってください!」
私が急いで辺りを見渡す。お姉さんと一緒にいたお兄さんが「これ?」と私の携帯を差し出した。
「ありがとうございます」
携帯を開くと新着メール一件の文字がすぐに見えた。急いで開くと[駅で待ってなさい。陣内さんとこのお姉さんが迎えに来てくれるって]とあった。
「陣内さん、ですか?」
恐る恐る聞くとお姉さんはニコッと笑って「やっぱり」と言った。
「名字名前です。よろしくお願いします」
「私は篠原夏希。よろしくね。ほら、健二くんも」
「あ、そうですよね。小磯健二です」
健二さんは夏希さんの彼氏なのかな。私がぼーっと考えていると夏希さんが「名前ちゃんは何歳?」と聞いてきた。
「今年で13です」
「あー、じゃあちょうど佳住馬と同い年かー」
「か、かずま?」
「うん。私の従兄弟なの」
「へ、へえー」
まさか、そんなわけないか。かずまくんは池沢って名字だし。それにかずまなんてたくさんいるよね。私はドキドキ五月蝿い心臓を抑えつけて、夏希さん、健二さんと一緒に歩きはじめた。
夏はまだ始まったばかり。
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