月明かりの影法師

霊感体質政宗×地縛霊元親




「ははっ…だれも気付いてくれねーや」











「だからいっただろう?
噂だって、出るはずないって」

ある夏、夕方。
鳥居の下で聞いた噂
裏山の小道のトンネルをずっと向こうに行ったところにポツリと古びた屋敷があって
そこには自殺した霊が夜に出るそうだ



「ここ…か」

まさか本当に屋敷があるとは、
この屋敷の存在自体も噂が作り出したものだと思っていた。
夏休み、部活の課題でここの噂の真相を突き止めに来た。
部活というのはまぁオカルト部とかそういうのだ、興味もないがなぜ所属してるか?なぜだろうか、友人につられて、といったところか。

「…さっさと終わらせて帰ろう…」

夜だし、こんな不気味な場所に一人はさすがに怖い。

たしか噂だと3階の一番端の部屋にいるらしいな
鍵の開いたドアを開け、正面の階段を上る。

俺が何も感じなかったら何もないと思ってもいいだろう。
誰にも言っていないが俺には霊が見える。
厄介な霊感体質、この部活にもってこいの体質。興味もないのに本当に要らない体質。

3階に上がるとどんよりと重苦しい空気が漂っていた

「これは…」

足元に照らされた懐中電灯が目的の部屋に向けておそらく俺にしか見えない引きずられた跡をうつす

その跡を辿って部屋の前についた。
噂の部屋のその隣の部屋のドアの向こうに、その跡は続いていた

「……」

ごくり、と生唾を飲み込み、汗を拭ってドアノブを捻った。

「……お邪魔するぜ…?」

「……――!?」

部屋は暗いが確かに、声にならない音が聞こえた

「…誰かいるのか?」

懐中電灯で室内を照らすと本が飛んできた。

「!?」

咄嗟に避け、そのあたりを照らす。

「…出てけ」

今にも本を投げるポーズを取ってギンと睨みつけるこいつは

「あまりにも危なっかしい幽霊だな」

「死んでない!!!俺は幽霊じゃない!!」

いやいや見た感じ幽霊ですけど、透けてますけど

「嘘つけ、透けてんぞ」

「パンツ!?」

「アンタの体がな!!!」

「でも俺が見えてるんだろう?」

「それは俺が霊感体質だからだ」

「…そうか…」

少し悲しそうな声がしたのはなぜだろう。
死んだことを知らなかったのか、日に当たっていない青白い肌が懐中電灯に反射した

「そっちに行ってもいいか?」

しまった、幽霊相手に何を言っているのか、もしかしたら憑かれるかもしれないのに
でも、この声音から聞くに青年が心地よい声で

「どうぞ?」

なんていうから






「俺ここの屋敷に住んでたんだ、でけーだろ?」

この幽霊は元親というらしい。
近くに寄ってみたら銀髪で左目を眼帯隠していて、少し痩せていた。

「でも裕福なのは本当に家柄だけで愛される、とかそんなのとは縁がなかった」

両親は仕事ばかり、俺と数人の使用人しか屋敷にいなくて

ある日、俺が学校で70点を取った。
80点以上しか認めない親が怒るのを恐れていた使用人から体罰を受けるようになった。

中学から受け続けてて高2の梅雨についに監禁された。
たぶん廊下の床の後は俺が暴れたり爪を立てたりして残したやつ
最初のほうは楽だった。学校行かなくてもいい。テストもしなくていい。勉強もしなくていい。
でもそれと一緒に使用人が俺を忘れたようにそこに放置するようになった。飯なんてなくて、でも部屋から出れなくて。

「ある日寝て目が覚めたら楽になったんだ。
体重がなくなったみたいに体も気持ちも楽になった」

「……」

「たぶん俺寝たまま死んだんだな…だから苦しくもなくて、いつも通りに朝を迎えた。」

でもいつも見てた外の景色も少し変わってて、

「多分数年は経ってるよな俺が死んでから」

「そうだな、10年は使われてない、
忘れ去られた屋敷だ。
最近は自殺した幽霊がいるって噂で幽霊スポットってやつになってる。」

「そっか、でも俺自殺したんじゃなくて殺されたんだけどなー」

とまた悲しい顔をする元親の頭を撫でようとしたが、右手は虚しくするりと抜けて、空を掻いた。

「俺が幽霊ならさわれねーよ、残念だったな
俺の髪ふわっふわなのに、本当に残念だ」

「…Ya、本当に残念だな。」

光のない青い瞳が笑みを含んだ

「なぁ元親、」

「あん?」

「明日も来てもいいか?」

今日はいつもは必要ない体質がとても役に立った。
月明かりに透ける元親がとてもきれいだと、見れてよかったと。

「待ってる!」

笑顔でそう答えたのに






その笑顔も言葉も夢だったのですか

翌日の夜、その屋敷の3階の空気はとても澄んでいた




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政宗に気付いてもらえた元親は成仏しました。
(BGM:幽霊屋敷と首吊り少女)

(12.03.03)


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