flower2


僕の台詞を聞いて、おじさんは左右に首を振る。それだけではない、と訴えるかのように。

「勿論、お前に世話になってるというのも事実だが。この花束の意味はそれだけじゃねぇんだよ」
「え?」
「お前の誕生日、結局、俺は何も出来なかったからな」
「……」

何ヶ月も前の僕のバースデー。
例のメンバーでバースデーサプライズをするつもりだったらしいけど、ことごとく失敗して。
揚げ句の果てには、本物の盗難事件が起こってしまい、最早、それどころでは無くなってしまった。
だけど、あの事件では、犯人確保のポイントを僕にバースデープレゼント代わりにくれたはずなのに。

「プレゼントならちゃんと頂きましたよ、犯人確保のポイントを」
「いやいや、流石にアレはプレゼントとは言えねェだろ?それでな、ファイヤーエンブレムに相談したら、今日が丁度花の日だし、それに便乗したら良いんじゃないかって…。他に良いアイデアも浮かばんかったし。まぁ、俺にはこんなことぐらいしか出来ねェからな…。だからこれを、バニーに受け取って欲しいんだ」

そう言って、おじさんは改めて手に持っていた花束を、僕の前へと差し出す。

「……僕の誕生日なんて、もう何ヶ月も前のことですよ?」
「分かってる」
「幾らなんでも、時効なんじゃ」
「…やっぱ、こんなおじさんからの花束なんて、気持ち悪くて受け取れないか?」
「な…っ。べ、別に誰もそんなこと一言も、言ってないでしょ…っ」

半ば引ったくるように、花束を受け取る。
その動きに釣られて、ゆらゆらと花弁が揺れて微かな芳香を放つ。
僕はこの手に持つまで知らなかった。薔薇がこんなにも良い香りを身に纏っているということを。

「…勘違いしないで下さいよ。あ、貴方が可哀相だから、一応、貰っといてあげるだけですから」

何で薔薇の花束なんだと、花束を片手に小さく独り言を呟けば、途端に不安げな瞳が僕を射抜いた。

「……あ、もしかして、薔薇、嫌いだとか?」
「ち、違いますよ、そういう意味じゃなくて。……まぁ、とにかく、一応、礼を言っといてあげます。有り難うございます、虎徹さん」

面と向かって、相手に礼を言うのは何とも照れ臭い行為だったけど、柄にもなくこの胸は熱くなってしまった。喜びというものを深く感じてしまった。

「…相変わらず、素直じゃねェな」

小さくぼやいたけれど、でもおじさんの顔は何処か嬉しそうだった。
僕はこの人の、こんな表情を、初めて見た気がする。
顔を綻ばせた、本当に素敵な笑顔を。
そんな彼の表情を見て、不覚にもドキリと鼓動が高鳴らせてしまった。


報告書を無事書き終えた僕は、綺麗に巻かれたラッピングを解いて、おじさんに貰った花束をデスクの近くへと飾った。
僕の部屋には花なんて、似合わないとつくづく思う。
それでも、悪い気はしない。
おじさんが僕のことを思い、僕の為に買ってきてくれたのだから。

「…虎徹さん」

静かに窓辺に佇んでいた、おじさんにそっと声を掛ける。風がふっと動くように、その双眸がこちらを捕らえる。

「…虎徹さんは、この薔薇の本数の意味、知っていたんですか?」
「本数の意味…?」
「もしかして、何も知らずに、あの本数を…?」
「まぁ、こう見えて、おじさん、ロマンチストだから」
「じゃあ、やっぱり…」

あの薔薇の本数には、やはり、意味があるのだ。そう考えれば、あのキリの悪い花の本数にも合点がいく。
だけど、おじさんは――。

「……さぁ、それはどうだかな?」

何処か意味ありげな笑みを浮かべるだけで、はっきりした返答はせずに、再び視線を窓の向こうの景色へと戻してしまった。

「何ですか、そのはっきりしない反応は…」

全く理解出来ない人だと、嘆息を漏らして、僕は再度パソコンの前へ。
目の前に映る液晶画面には、先程調べた薔薇の「花言葉」とその『本数の意味』が映っていた。


 lower

(20110807)


【バラの花と本数の意味】
1本:一目惚れ
3本:告白
11本:最愛
50本:恒久
99本:とこしえの愛
100本:年老いても共に
108本:結婚して下さい
365本:毎日恋しくてたまらない
999本:何度生まれ変わってもまた貴方を愛します


……………
果たして、虎徹さんは何本の薔薇の花を、バーナビーにあげたのでしょうか?


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