million star 1


「…なぁ、バニーちゃん。このまま寄り道していきたいんだけど、ちょっとだけ付き合ってくんない?」

今回の事件も犯人確保と言う形で幕を閉じた後で。いつもの、あのへらへらとした笑顔でおじさんがそう言ってきた。
僕は相手の顔をまじまじと見返し、堪らず不満げな声を漏らす。

「…前にも言いましたよね?僕のプライベートまで干渉しないで欲しいと。もう、忘れたんですか?」
「確かに言われたが…」
「僕は貴方と違って、忙しいんです。寄り道なんてしてる暇はないんですよ」
「うわ、相変わらず、酷い言い方するな。なぁなぁ、本当にちょっとだけだから…っ」
「嫌です」

間髪入れず、きっぱり、と、僕はそれを拒否する。

何故こんなにも、この人が“寄り道”にこだわるのかは分からないが、こうやって執拗に言い寄ってくる時は、大概良くないことの先触れだったりするのだ。
この人のせいで、過去に何度、僕が痛い目に遭ってきたか…。
今回の事件は、珍しく少々てこずったこともあり、これ以上の面倒は、出来ることなら避けたい――正直なところ、それが僕の本心だった。

「…ほら、分かったなら、さっさと行きますよ、おじさん」

歩き出そうとした瞬間、何かに掴まれた感覚を覚え、そちらの方向へと視線を滑らせる。

「…まだ、何か?」
「…バニーちゃんにどうしても見せてあげたいモノがあるんだよ」
「僕に見せたいモノ…?」
「…あぁ」

不得要領な表情で相手を見ると、ただこくりと頷いてみせる。

「浅はかな貴方のことだ。どうせまた、くだらない何かでしょう?」
「違うって」
「どうだか…」
「なぁ、絶対、手間は取らせないから。だから、お前の時間をホンの少しだけ、オレに預けてくれねぇか?ほら、この通りだ」

顔の前で自分の手を重ねて、おじさんは深々と頭を下げて来る。

「ちょ、ちょっと、止めて下さい。こんな所で…っ」

何てことをしてくるんだ、この人は。
僕はこの男の、この手のやり方が苦手だったりする。こんな場所で、こんなことをされたら、こっちだって無下には出来なくなってしまう。
此処は公共の場所で、誰に見ているかも分からないというのに。

「…やっぱり、ダメか?バニー」
「………」

出会った当初なら、きっぱりと拒否出来ていたはずなのに、それを躊躇ってしまうのは、間違いなく目の前の人物のせいだと思う。
まさか自分が此処まで、このおじさん一人にこんなにも影響されるとは、誰が予想出来ただろうか。

「…まったく、貴方という人は」

言って、嘆息をひとつ漏らす。

「…そのしつこさには、本当、呆れますよ。僕がこのまま拒否し続けたら、今度は何を仕出かすか分からない。しょうがないから、ホンの少しだけ付き合ってあげます」

結局、僕は、短時間で用を済ます、という条件付きで、おじさんの我が儘に付き合うことにしたのだった。


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