Delicacy


皆が言う程、悪い人じゃない。だけど、決して良い人という訳でもない。
だって貴方は、口は悪いし、感情が直ぐに顔に出てしまうような正直者で、口より手が出てしまうような乱暴者だから――。


ここは学内の食堂。
僕はいつもの様に、兄さんの前の席に座っている。
自分の食事には一切手を付けず、頬杖をつきなが、ただぼんやりと目の前の兄を見つめていた。

兄さんはよく見ると、とても整った顔をしている。
(双子の僕がいうのも、変なのかもしれないが…)
百面相のようにコロコロと変わる表情、翡翠のような双眸、それから…。
そのどれを取っても、兄さんは魅力的で。
だから僕は、ついつい見とれてしまうのだ。しまうのだけど…。

食事をし始めてから、まだ僕らの会話はまだない。
兄さんが咀嚼する微かな音だけが、僕らを包んでいるだけだった。

すると、僕の視線に気付いた兄さんが、こちらをキッと睨んできた。

「何だよ、さっきからこっちばっか、じろじろ見てやがって」

僕はそんな彼の言葉に、意に介することもなく、顔はこんなに整っているのにな、と、しみじみと告げた。

「…っ!?」

僕の言葉を聞いた途端、兄さんは思わず吹き出しそうになっていた。

「…僕、ずっと思ってたんだけど。兄さんは絶対に損してるって。顔はこんなにも愛嬌があるのに、性格に難があるなぁ…って」

残念そうに首を横に振る僕に、兄さんは呆れ顔でこちらを一瞥する。

「…何、気色悪いこと言ってやがる。そんなくだらないこと言ってねェで、黙って早く食っちまえよ」
「僕の話はまだ終わってないから。ここからが肝心なんですよ、兄さん」

兄さんは僕の言葉に気に留める事はなく、食事を続ける。

「ねェ、兄さん。兄さんは、他の生徒から何て呼ばれているか、知ってる?…“鬼”だよ、鬼…」
「…はん?別に興味ねぇよ、んな話」

そう言うと思った。
人の噂なんて、兄さんには何の意味も持たないし、別段気にもしない。
それは小さな頃から、蔑まれてきた経験がある兄さんだから、最早、慣れっこになってしまった部分があるのだろう。

だけど、僕は違う。違うのだ。
僕は兄さんのようにはなれそうもない。
だって僕は、自分が大切に想っている人を、そんな風に呼んで欲しくないから。

「…僕はイヤなんだ。兄さんは決してそんな存在なんかじゃない。とても優しい人なのに…」

僕は兄さんの不器用な優しさを知っている。
だって、ずっとずっと近くで見てきたんだ。
貴方の色々な一面を。
苦しんできた姿を。
皆はそれを知らないだけなのだ。

「…なら、それで充分だろ?」
「え?」

僕は兄さんの言葉に驚いて、思わず顔を上げた。

「お前がホントの俺ってモンを知っていてくれてるんだろ?それなら、それで良い。別に他の奴らの言葉に、俺は、興味はねぇから」

兄さんはそれだけ言って、そっと席を立った。
立ち去った存在の所業により頬を仄かに赤く染めた、僕を置き去りにして…。
僕は熱くなった自分の頬に、静かに手の平を宛がう。
兄さんによって齎された、熱を確かめるように――。



僕の大切な兄は、ちょっぴりデリカシー不足。
だけど、不器用でも真っ直ぐな想いはちゃんと伝わっているよ。



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高校入って間もない頃を捏造。


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