世界で一番幸せだって、思って欲しかったんだ。
笑顔、下さい
最近気付いたこと。オイラ、旦那が笑ってるの見たことねェ。否、見たことはあるけど……戦闘中ぐらい?ちゃんと笑ったトコ見てェな。
デイダラは今、サソリを笑わせる方法を考えている。笑わせるといっても、おかしくて笑うのではなく、幸せにさせたいのだ。それはデイダラにとってあまりにも難しく、そう簡単に考え付く物ではない。
「……おい、デイダラ。難しい顔して何考え込んでんだ?」
「あ、旦那!…なあ、どっか行きたいトコとかない?」
「はぁ?別にねえよ…そんなの」
「じゃあ、欲しい物とかは?」
「……強い奴の新しい死体。もうそろそろ傀儡増やしてえし」
「あー……、そうじゃなくて……」
「じゃあ…未発見の毒草」
「……もういいや。うん。部屋で考えてくる」
「ああ。(俺、なんか悪い事言ったか…?)」
デイダラは自分の部屋に向かっていった。
「デイダラ……まだ部屋にいるのか?」
デイダラがサソリのことで真剣に悩んでいるとも知らず、サソリは心配していた。疲れたりしないのだろうか?など、柄にも無いことを思ってみたりする。
「デイダラさん、出てきませんねえ」
「!鬼鮫…」
「こんなに長時間考え込んでるなんて、よほど大切なことなんでしょうか?」
「わかんねえ。普段は頭使わねえ癖に」
「サソリさん。デイダラさんにスープでも持っていってあげたらどうでしょうか?」
「はあ!?なんで俺が…」
「きっと疲れているでしょうし。デイダラさんが気に入っているのがあるんですよ。
作り方、お教えしますから」
鬼鮫に言われて、サソリは気付いた。飲み物を持っていってあげればいい、と。少しでも疲れがとれるだろうと考えたのだ。
「……分かった。教えろ」
「これで完成です!初めてとは思えないくらい、いい出来ですよ」
「そうか?」
あれから少し時間が経ち、台所にはいい匂いが広がっていた。あっさりした美味しそうなスープが、マグカップに注がれる。
「じゃあ、持っていってくる」
「はい。デイダラさんも喜ぶでしょう」
「…ああ」
サソリの脳内に浮かぶデイダラの顔は、笑っている。そして、スープを受け取ると同時にこう言うだろう。
『ありがとう、旦那』
容易く想像できるその姿に、サソリは思わず、笑った。
コンコン。
デイダラの部屋に響き渡る、扉をノックする音。サソリの笑顔を見る方法は、今だみつからない。一度思考回路を切断し、デイダラはイライラしながら返事を返した。
「…誰だい?」
「デイダラ?入っていいか?」
「旦那!?入れよ」
デイダラはサソリを部屋に招き入れた。そして、サソリが何か言う前にいきなり質問した。
「なぁ、旦那が幸せだと思う時って、いつ?」
「…?幸せ……」
「うん。ちょっと気になるし」
「……、そんな事………きくなよ」
サソリは顔を俯かせ、答えることを拒否した。幸せだと感じる時、それは、……デイダラがいるとき。そんなこと、当の本人に言える筈が無い。
しかし、デイダラはそれに気付かない。さらにイライラしながら、同じ質問を繰り返す。
「アンタが幸せだと思う時って、いつなんだよ?」
「きくなって言ってんだろうが!!……何を考えてるのか知らねえが、ちょっと休めよ。これでも飲んで……」
「そんなもの、どうでもいいから!!!答えろって言ってるだろ!?」
デイダラの一言で、室内は静まり返った。
「そんな、もの……?」
「あ……旦那、今のは……」
「……悪かったな」
「サソリ……?」
「そんな、もので……っ悪かったな!!!」
ガチャン。
サソリは叫んだ後、マグカップを床に叩きつけ、デイダラの部屋から飛び出した。デイダラは、笑顔にさせたい相手を反対に怒らせた自分に、心底呆れた。床に広がるスープはサソリが作った物だと、ようやく理解する。そして、仲直りするために、サソリの後を追った。
サソリは台所で立ち尽くしていた。目の前には、スープが入った鍋。あと、マグカップ五杯ほどのスープをかき混ぜながら、自問自答する。
何でこんなに作ったんだ?
デイダラが飲んでくれると思ったからだろ?
何で飲んでくれなかったんだ?
必要なかったからだろ?
何で俺は……
「こんなに、弱くなったんだ?……クソッ!!情けねえ……っ!」
ぼろぼろと溢れるナミダ。頭の中では、先ほど想像していたデイダラが、笑っている。言葉が、聞こえる。
『ありがとう、旦那。』
ぎゅ。
「ありがとう…サソリ」
「!!デイダラっ…!?」
「ごめん。……本当にごめん」
サソリはデイダラに後ろから抱きしめられ、身動きがとれない。
「旦那、オイラさ……アンタの笑った顔が見たかったんだ」
「笑った、顔?」
「うん。だから、幸せにして笑わせる方法考えてたんだけどなあ……。思いつかなくて、イライラして。つい、ひどいこと言っちまったな。ごめんな」
「……あのときにこのスープ飲んでくれたら……普通に笑えた。わざわざ心配して作ってやったのに、あんな言い方、ありえねえ」
「ごめん」
いつに無く真剣なデイダラ。突然サソリは動いてデイダラの腕の中から抜け出し、マグカップを手に取った。そして。
「とりあえず、飲んで?」
デイダラに差し出す。デイダラは何も言わずに受け取り、ひとくち、飲んだ。
「……美味い」
「そうか」
サソリは、笑った。
結局、2人は相手のことが1番で。