イライラする。そうだ、いつだって。





コントラディクト芸術論





 その日、二人は久しぶりの休みだった。いつもなら、そう、いつもなら今、二人でゆっくりと寛いでいるところだ。だが、その日は違った。サソリは部屋に篭ったまま。デイダラは談話室でただただ目を閉じていた。不機嫌そのものといった表情で。アジトは静かな空気に包まれていた。反比例するかのように、デイダラの頭の中は感情がぐちゃぐちゃと混ざり合う。

 ふざけるなふざけるなふざけるな何でオレがこんなイライラしなくちゃならないんだ何もかもサソリのせいだありえないありえないあの人形オタクがまだ部屋に篭ってんのかよあの雑魚がそんなに気に入ったのかよやっぱいっそ芸術的に爆破しちまえば良かったとりあえずやっぱ一番むかつくのはサソリだ俺の芸術馬鹿にしやがって芸術性のかけらも無い思考しやがってあああ、とにかくイラつくんだよ、うん

「喝!!」

 デイダラの部屋で響いた爆音は談話室まで届く。自分の部屋は無茶苦茶になってしまっただろうが、それでも多少気は晴れ、ほんの少し口角を上げたデイダラは足を組みなおしてソファーに沈んだ。
 足音が聞こえる。カウントダウンスタート。3、2、1!

 ドカッ!!

「デイダラァ!!てめぇ何しやがる!?」
「別に何も、うん」

 談話室の扉は無残にへこんでいた。所々に木片の着いた赤い髪を掻き揚げながら怒鳴る。サソリの腕や体にはべっとりと血が付着していて、髪を掻き揚げたせいで頬にも髪にも血の跡がある。デイダラはそれを見ていらだたしげに目を細めると、小さく舌打ちした。

「お前以外に誰があの土の塊を爆破できるんだ!?隣の部屋の事も考えやがれ!!」
「土の塊とはひでぇ言い様だな、うん。それよりまだアンタのポンコツ人形は仕上がってねぇのかよ?」
「ああ、お前のせいで途中まで組んだ仕込がバラバラだ!!」

 デイダラは知らず知らずのうちにあの人形にかけるサソリの時間を延ばしてしまったようだ。

「次爆破しやがったらてめぇの起爆粘土とも言えねえ誤爆粘土皆叩き潰してやる!!」
「オレの芸術を馬鹿にすんなよ……っ!!」

 カンッ!!

 デイダラのクナイは談話室の入り口を通り抜け廊下の壁に刺さった。半ば本気で投げられたそれは壁深くまで刺さっているが、サソリを捕らえることは無かったようだ。
 デイダラは荒々しく立ち上がり、盛大な音を立ててへこんだ談話室の扉を閉めると、仰向けにソファーに倒れこんだ。肺いっぱいに息を吸い込み、もやもやと一緒に吐き出すと、再び目を閉じた。





 ふと目を開く。眠っていたようだ。眠りにつく前のイライラは見事に空っぽになっていた。起き上がり、座ったまま伸びをした後、自然な流れで目の前に居たサソリを見た。特に驚くことも無く。しばらく見詰め合ったあと、デイダラは座っている位置をずらし、サソリはその横に腰掛けた。部屋を支配する、沈黙。デイダラは外の暗さで相当な時間が経っていることを知った。サソリの湿った髪(風呂にでも入ってきたのだろう)に触れ、ただただ時間をやり過ごす。





 どのくらいの時間がたったのだろうか。

「なんでオレ、さっきあんなにイライラしてたんだ……うん?」
「……さぁ?」
「いや、知ってるんだけどさ」

 濡れてつやつやした髪。水滴はサソリの頬を伝っている。デイダラは何気ない仕草でそれを拭った。

「アンタと芸術の話したら、なんかイライラするんだけど、なんで?」

 サソリはふと視線を落とす。考えているようだ。デイダラは立ち上がると、談話室から出て行った。戻ってきた時には、手に水の入ったボトルとコップを二つ持っていた。何の変化も無いサソリをしばらく見つめた後、コップに水を注ぎ、喉に流し込んだ。

「……自分の芸術に矛盾点が見つかっちまうからだろ?」

 唐突に口を開いたサソリ。今度はデイダラが視線を落とした。





「あ、そうか」

 たっぷりの沈黙の後、デイダラは呟いた。

「サソリ、よくこんなの分かったな」
「ああ、俺も……同じだからな」
「クク、なるほど…っ」

 デイダラは笑うと、サソリを抱きしめた。

「オレら、笑えるほどそっくりじゃん」
「は、そうだな」
「ってことはさ、このイライラもアンタと居る限り一生収まらねぇな」

 二人は笑いあった。デイダラはサソリの肩に額を乗せてもたれ掛かり、小さく呟く。

「さっきイライラしてた理由、もう一個あるんだよ」
「え?」
「アンタに分かるかい?」
「……分かんねぇ」
「クク……っ」

 鼻先が触れるほど近くに、顔を寄せる。青い目は真剣だった。

「あの死体が羨ましかったんだよ。アンタが肌を撫でながらさ、服を脱がして……んで、体の造りを見てすごく綺麗に笑うんだ。まるで、誘ってるみたいに……、な」
「……」
「オレが死んだ時も、あんなふうにしてくれるかい……?」
「……はぁ、」

 サソリは大きなため息を吐いた。そしてじっとデイダラを睨む。

「できない」
「なんで?」
「さっき言った筈だぜ?俺もお前と一緒だ、と」
「そういやそうだな……でも、オレは旦那が居なくなるなんて考えられねぇのに、アンタは平気そうだな」
「いや、それは違うぜ?」
「……それこそ矛盾してないかい?」
「お前が死んだ後は、俺も付いて行く」
「ククっ」

 矛盾したお互いの芸術。あまりに滑稽だ。
 本来永遠を求める物は、相手に永遠の死を望まず、本来瞬間を求める者は、相手に瞬間の生を望まず、





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