とろけるように、甘い甘い、お菓子を。
sweet blood - Halloween
「バア!!」
「う、わああぁぁぁああっっ!?!?」
真夜中の室内に、サソリの叫びが響き渡った。
「ク、ははは……!!!驚きすぎ!!」
「驚いて当たり前だ!!デイダラ、今日は火曜日だぜ!?」
サソリはまだドキドキしている胸を押さえた。 確かに、驚くのも無理は無い。ほんの少し、風を入れたくなって窓を開けたら、いきなり目の前にデイダラが現れたのだ。 土曜日しか来ないはずの、デイダラが。
デイダラは、サソリに向かってにやりと笑った。
「サソリ、今日は何月何日?」
「は!?え、っと……10月31日?」
「そうそう。何の日か分かるかい?」
「え……あ、ハロウィン?」
「 Yes!Trick or treat!」
デイダラは楽しげに笑い、定番の言葉を囁いた。
「……デイダラ、人間のお菓子食べれるのか?」
「ああ、少しなら。何かくれよ?」
サソリは焦った。まさかこんなことが起こるなんて予想していなかったので、何も用意していない。そして、サソリは甘党な訳でもなく、欲しい時にしかお菓子は買わない。 背筋に、冷や汗が伝った。
「何?もしかして、無いの?」
デイダラはサソリの様子を見て、さらに楽しげに聞いた。
「あ、有る…っ!!」
サソリは慌てて叫び、台所へ走った。そして、祈るような気持ちで何か無いかと探す。しかし、台所の何処を探しても、お菓子は見つからなかった。仕方なく、重い足取りでデイダラの居るリビングへ向う。
「有った?」
「……無い」
デイダラを前にして、聞こえるか聞こえないか位の声で、呟いた。
「へえ?お菓子くれないの?くれないんだったら、悪戯するのが決まり、だよな?」
デイダラは怪しげに笑いながら、サソリに一歩一歩近づく。嫌な予感がして、それに伴うように一歩一歩後ずさるサソリ。だけどそれにも限界があって、ついには壁際まで追い詰められてしまった。
「さて、如何しようかな…?うん」
「!?ァ…っ!」
デイダラはサソリの耳に口付けた。耳が弱いことを知っていてやるのだから、たちが悪い。
「悪戯、ねぇ……」
耳から首筋へと唇を這わすデイダラ。サソリは、恐る恐る話しかけた。
「血、吸うのか……?」
「ん〜……それじゃ、いつもどおりでつまんねェよ。……あ、そうだ」
デイダラは、突然サソリの後頭部の髪を鷲掴みにし、引っ張って上を向けさせた。
「ぅ……っ!痛っ……!!」
そして、次の瞬間、サソリの唇に柔らかい物が触れた。
「!!!」
サソリは、目を見開いた。頭の中は真っ白で、髪を引っ張られている痛みさえ忘れた。デイダラに、キス、されたのだ。目の前でデイダラが笑い、ぺろりと唇を舐められて、離れた。
「ククク…っ!」
「……っ……」
サソリは、何か喋ろうと口を動かすが、言葉が出てこない。その様子を見て、デイダラがまた笑った。
「クク…っ。これって、人間にとってはすごく意味のあることなんだろ?」
「!!」
「でもな、オレら吸血鬼にとっては、此れも食事の一環なんだよ。味見、みたいな?実際、血とは味が全然違うけどな」
そう言ってデイダラは、動けないサソリにまた口付けた。今度は、少し開いた唇の間から舌を滑り込ませ、深く、深く。味わってるのか?ぼんやりとサソリは思った。すごく大事な『キス』も吸血鬼にとってはただの『味見』。大好きな相手にキスされたと思ってとても喜んだ自分が、とんでもない馬鹿のように思えた。
「甘……やみつきになりそ……」
「は……っ」
デイダラは唇を離し、サソリの顎を伝うどちらの物か分からない唾液も舐め取った。その行為で、サソリは自分がやはり食料でしかないことを、再び思い知る。涙が溢れて、頬を濡らした。
「サソリ?」
不思議に思ったのか、デイダラが声をかける。サソリが答えないで居ると、デイダラは涙も舐め取り始めた。美味しいんだろうか?次から次へと溢れる涙を、全て舐め取られる。
ああ、何て残酷なのか?どれだけ想ってもサソリが人間であることに変わりは無い。
「アンタそのものが甘いお菓子だったみたいだな。これじゃ、悪戯でもなんでもねェな……」
それは、違う。デイダラはサソリに、最低な悪戯を施したのだ。サソリの心を傷つけるような、悪戯を。
「美味しい。アンタ、やっぱ最高だよ。ク、クク……っ!!」
いつか、この想いからも開放される時が来るんだろうか?サソリはどのような形でそれを迎えるのか、恐れた。駄目だと分かっていても、どんどん堕ちていく。残酷な恋に、涙した。