何かが渦巻く。心の端で。





sweet blood - 6





 サソリは、緊張していた。きっと、デイダラが現れてから一番。先週のデイダラとのやり取り。サソリは自分の取った行動が信じられなかった。ただただ、甘いあの香りに包まれ、何とは無しにデイダラを見つめていた。ふと、目が合い、にこりと微笑まれれば、もうサソリに抗う術は無かったのだ。必死に隠してきた思いは、溢れて止まらず。

「(我ながら大胆な事を……、)」

 サソリにとってのキスは、デイダラにとってはただの『味見』。獲物の味を確かめるための行為に過ぎないのだ。
 サソリは小さく溜息を吐いて、いつものように鍵が開いている窓から月を眺める。と、月を何かの影が遮った。何かの見間違いかと、サソリが瞬きした瞬間、夜の冷たい空気が部屋に流れ込んだ。

「こんばんは。待っててくれたのかい?」
「っ!」

 その声に、サソリの心臓はどくりと跳ねる。そっと顔を上げると、やはり声の主はデイダラだった。楽しげな口調、目を細めて笑う姿はいつもとなんら変わりは無い。サソリはそのことに酷く安堵した。

「……こんばんは」

 サソリがゆっくりと返事を返すと、デイダラは突然サソリに手を伸ばす。サソリは後ろへ仰け反ったが、後頭部に手を掛けられぐいっと引き戻される。何をするのかと思えば、デイダラはサソリの襟を引っ張った。冷たい指が素肌に触れて、サソリは体を震わせた。低い体温が外気にさらされ、更に低くなっている。

「痕、消えたな……うん」
「っ、お前のせいで隠すの大変だったんだぞ!」

 一言文句を言う。其処に今週の不満を詰め込む。デイダラは小さく笑い声を漏らし、ごめん、と謝罪した。そのあと、ゆっくりと首のチョーカーに指を掛ける。

「ちゃんと此れ着けてるじゃん」
「いや、外し方が、」
「分からないんだろ?……うん?」
「……」

 あれからサソリはじっくりとそのチョーカーを調べたが、分かったことは繋ぎ目が無いということだけだった。どうやって着けたのか全く見当がつかない。外そうとしても、飾りの青い宝石が楽しげにちらちらと輝くのみであった。まるで『無駄な努力だ』、とでも言うように。
 と、突然サソリの視界が傾いた。背中に、座っていたベッドの柔らかい感触がした。

「……何考えてんの?」

 見上げたデイダラの顔は何処と無く不機嫌。一人で思考にふけっていたサソリが気に入らなかったのだ。

「ごめん」
「まぁいいけどな……うん。血、吸って良いかい?」

 多めに、と耳元で囁かれた言葉に、サソリはどきりとした。

「な、」
「この前ろくに食べなかったからな……うん」
「それはお前が、」
「もう良いから。噛むぞ?」

 サソリが制止の言葉を掛ける前に、デイダラの鋭い牙が白い首筋の皮膚を破った。多め、という宣言通り、デイダラは赤い血をどんどん吸い上げてゆく。きっと今までで一番長い『食事』に、サソリの体は限界に近付いていた。快楽が体中に回り、時おり零れて肌を伝う血をデイダラが舐め取る、その感覚でさえ、今のサソリには耐え難い刺激だ。

「、ぁ、ふ、やぁ…っデ、ぁっ」
「……、もう無理?」
「あ、ァ、…んっ」

 返事を言葉にすることもままならず、サソリは微かに首を動かし頷いた。それを見てデイダラは一度唇を離し、いつものようにちゅ、ちゅ、と傷口を吸い上げた。

「お疲れ」

 デイダラが荒い呼吸を繰り返すサソリの頭を撫でる。だんだんと息が整ってくるにつれ、眠ろうとするサソリの意識。と、デイダラの声がふいにそれを引き戻した。

「なぁ……、」
「ん、?」
「アンタいつも此れどうしてんの?」
「は……?」
「此れ」
「っ、やあぁ…っ!!」

 サソリには一瞬何が起こったのか分からなかった。デイダラが反応しているサソリ自身をぎゅっと握ったのだ。電流のような感覚が、びりびりとサソリの体を駆け抜けた。

「一人で処理してんの……うん?」
「、し、てな…っ、」
「やっぱり。アンタの事だから我慢してるんだと思った、……うん。案の定、だな」
「っ、」
「つらくねェのかい?やっぱり怖い?」

 サソリは顔ごとデイダラから目をそむけ、小さく頷いた。デイダラが嫌な笑みを浮かべたことに、サソリは気付かない。

「じゃあ、」
「?」
「オレがやり方教えてやるよ、……うん」
「、はあ!?おい、そんなの必要ねえよ!!」

 デイダラは力の抜けたままのサソリを抱き起こし、ベッドに座って後ろから抱きしめる。背中からデイダラの低い体温がサソリに伝わる。同時にサソリの心臓の早さも、デイダラには伝わった。

「デイダラ、やめ、ろ!」
「クククっ」
「(何がそんなに楽しいんだよ!!)」

 殆んど力の入っていないサソリの抵抗を押さえつけ、服を脱がす。デイダラの行動は早い。サソリはあっという間に脱がされ、自身に触れられた。いつもの吸血の数倍かの快楽がサソリを襲った。

「ひァあ、や、ゃ、」
「気持ちいい?」

 デイダラの問い掛けにサソリは答えないが、びくり、びくりと体が跳ねる度に伝わる振動がデイダラにとっての十分な答え。

「(かわいい)」
「ん、ゃあ、…ぅあ、ぁ、駄、目……っ」

 もう限界が近いのか、サソリの足ががくがくと震えている。デイダラは頬にちゅ、と口付けて、一度手を離した。

「は、っはぁ……、は、」

 デイダラにくたりともたれ掛かって息を整えようとするサソリ。デイダラはサソリの頬を伝う幾筋もの涙を舌ですくい上げ、サソリを抱きしめた。

「はい、こっから自分でやれよ……うん」
「、無理だ……」
「折角やり方教えてあげてるんだから、ほら」
「、ぁっ、」

 デイダラはサソリの手に自分のそれを重ね、そっとサソリ自身に触れる。サソリはまたびくりと震え、頬に新たな涙が伝った。

「つらいだろ……うん?大丈夫だから」
「、」

 デイダラが優しく言う。本当につらいのか、サソリはぎゅ、と目を瞑ると、おそるおそる手を動かし始めた。

「ぁ、あぁぁっ、あ、や、んん、やぁ、ゃ」

 少しずつ早くなってゆく手。しかし、やはり最後まで行くのが怖いのか、足が震え始める頃になると、手が遅くなる。何度も何度も無意識のうちに自分を堰き止め、その度にサソリはきゅっと眉を寄せた。デイダラは其れをじっと見ていたが、だんだんサソリが可哀想に思えてきた。

「……、手伝ってあげる」
「、!?ひゃ、あ、ゃ、ああ!!」

 デイダラは再びサソリの手に自分の手を重ね、動かしてやる。サソリは大きく反応を示し、背筋がぴんと反った。耳に口付けて、最後だ、とばかりにデイダラの指がサソリの先端を強く押す。

「ぅあぁっ、で、ぇだ、らぁ…っ、ん、や、ぁ、ひ、ァあぁっ…!!」
「、っ(う、わ)」

 いっそう大きくサソリの体が跳ね、熱を吐き出した。デイダラにもたれたまま意識を失ったサソリの顔を、デイダラはまじまじと観察した。赤く色づいた頬。涙、汗が流れ、きらきらと光っている。でも。

「(そんな顔で、そんな、声で、)」
「名前呼ぶなんて、反則だろ……うん」

 其れよりも、サソリが必死に紡いだ名前が、デイダラの心をかき回した。

「(食べたい、たべたい)」

 デイダラはサソリを優しく寝かせると、優しく唇に口付けた。触れるだけの、口付けを。

「はは……っ、何やってんだよ」

 デイダラの押し殺したような笑いが部屋に小さく響いた。
 贈った口付けは味見?それとも。






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