夜。闇を駆ける黒い影。
sweet blood - 1
「……不味い。そっちはどうだ?」
「うーん……まあまあ?」
どしゃり。
投げ出されたのは、2つの死体。その前に佇む青年が2人。
「まったく。お前のカンには驚かされるな。デイダラ?」
「クク…っ!普通に考えればこっちの方が美人だったろ?」
デイダラ、と呼ばれた青年は不敵に笑った。そして、口から滴る真っ赤な血を拭い取る。背中には漆黒の翼がはえ、彼らが人間ではないことを物語っている。そう、彼らは吸血鬼。獲物を求め、夜の空を飛び交う影。
「…もういい。俺はもう帰るが、おまえはどうする?」
「オイラは……もう1人くらい喰ってくる」
「わかった。後でな」
「ああ」
2人は別々の方向へ飛び立った。
「美味そうな奴はいないかねぇ?」
デイダラは辺りを見回しながらゆっくりと飛んでいた。あれからしばらく時間がたっているが、まだ獲物が見つかっていない。飽きてきたデイダラは、ビルの上に降り立った。
「今日はもうあきらめるか。うん。帰……!!」
あきらめかけたその時だった。近くのアパートに見えた、顔。デイダラがアパートに近づくと、さらにはっきり見える寝顔。月明かりに照らされ、肌が白く輝いている。それを更に際立たせる、赤い髪。デイダラの喉が、ごくり、と鳴った。
ア イ ツ 、 ダ
デイダラは窓から部屋に入り込んだ。そして、寝ているうちに組み敷いた後、近くでもう一度観察する。見れば見るほど美しく、見とれてしまう。
「綺麗……」
思わずデイダラは、呟く。何時もなら、美味そうって思うだけなのに、このヒトはなぜか違った。
しかし、やはりデイダラは吸血鬼。目の前に美しい人がいて、食べずにいるということは無い。さっそく服を肌蹴て、首筋を消毒するように舐める。
「んっ……ぁ?」
ぴくり、と、赤髪の人間は反応した。覚醒が近い。完璧に目を覚ます前に、と、デイダラは柔らかい首筋に牙を立てた。
「う、あぁあ!?…痛ぁっ……!ん、ぁっ、やぁ……ぅ、何……っ!?」
デイダラは、知っている。今、この人間は、不思議な快楽にのまれているのだ。
吸血鬼の牙から出る成分は、人間の体液に混ざると変化し、弱い快感を生みだす。現に甘い声が漏れ、震えている体。デイダラはそれを楽しむように、ゆっくりと血を味わう。
「(こんな美味い奴、はじめて喰うな……)」
「んゃ、……ぁっ!!こ、わい………っ!!怖いッ……、っ」
「!!」
「ひぁ……!や、め………!!」
デイダラは、血を吸うのをやめて、顔を覗き込んだ。なぜか、この人間を殺したくない、と思ったのだ。ぎゅっと閉じられた目や、涙でぬれた頬で、とても怯えている事が分かる。デイダラは指先で、頬を優しく撫でた。
目が、開かれる。赤い、赤い眼。涙で濡れた赤い目が、デイダラを捕らえた。しばらく見詰め合ったあと、人間は、口を開く。
「……だ、れ……?」
「、アンタは?」
「……サソリ、だ」
「俺は、デイダラ。吸血鬼だ」
その言葉を聞いて固まる、サソリという人間。デイダラはそれを見ると、にやりと笑って言い放った。
「また、来る」
次の瞬間には、もう、サソリの目の前にデイダラの姿は無かった。