びちゃっ。
びちゃ、びちゃっ。
歩く度に響く水音。血溜まりの中を、一歩、また一歩。
「もう、終わりか?」
刀身を伝う汚い血をぴっと払う。白銀の髪の青年は目を細め、対峙する相手をひたり、と見据えた。
びちゃ、びちゃり。
先程まで生きた人であった肉塊を踏み潰しながら、少しずつ距離を詰めた。相手の表情には焦りと恐怖が滲み出ている。
「俺が駆り出された程だ、余程の手練れだろうと思ったんだがな」
唯の、雑魚か。
青年がそう呟いた途端、相手は刀を振り上げ、飛び掛かった。
ガキィン!
一瞬の出来事。青年は刀を跳ね返し、相手の首筋に刃を当てる。
「最後だ、教えてやろう。俺の名は直。……あの世で高杉殿に楯突いた事、後悔するが良い」
ごとり、と首が転がり、返り血が青年、直に降り注いだ。
「……高杉殿」
「入れ」
襖が開いた。高杉はそちらに目を向け、口角を引き上げる。血塗れの直がゆっくり部屋に入り、跪いた。
「任務、完了致しました」
「ククッ、早かったじゃねぇか」
「……高杉殿、久しぶりの任務だと思えばあのような雑魚、俺じゃなくとも出来ましょうに?」
「お前の相手になる様な奴はそう居ねぇだろ。暇潰しに回してやった任務だったんだがなァ」
足りないか。
そういう高杉のギラギラした目に引かれ、直は少し身を乗り出した。
「褒美は、?」
「ああ、来いや」
直は立ち上がると高杉の傍に寄り、首に腕を絡めた。濃い血の香りに高杉は笑みを漏らす。
「ククッ……、中途半端な任務で、興奮が収まらないか?」
直は、ただ目を細めただけ。高杉は所々赤に染まった白銀の髪に触れ、頭を引き寄せると深く、貪る様に口付けた。
「ん、……ん、ふ、」
ぞくり、ぞくり。背筋を快楽が伝っていく。口内をめちゃくちゃに犯す舌に、その熱に、思考は支配されてゆく。頭の芯まで痺れ始める頃、漸く二人は唇を離した。
「……次の任務も頼むぞ、“白夜叉”」
「はァ、……っ、御意」
高杉はまた笑い、直の頬を撫でる。乾いてそこに貼り付いていた血が、パリパリと割れて落ちて行った。