「アレルヤ・ハプティズム、ハレルヤ・ハプティズム!」

 朝のショートホームルームが始まって間もなく呼ばれた自らの名にアレルヤは顔を上げ、担任を見る。

「はい?」
「渡す物が有る。取りに来なさい」

 アレルヤはそれを聞いて、ちらりと後ろの席を振り返った。ハレルヤは既に机に突っ伏して眠っている様だ。実は眠ってはいないという事を知っているが、アレルヤは小さく溜め息を吐くと担任の元へ行く。手渡されたのは、校章の描かれた二つの封筒だった。

『アレルヤ・ハプティズム様』
『ハレルヤ・ハプティズム様』

 それぞれに宛名。その他には何も書かれていない。

「……?これは何ですか?」
「……、検討を祈る」
「あ、ぇ、?」
「ホームルームを続ける!」

 アレルヤが聞き返す前に担任は別の連絡事項を伝え始めた。仕方なくアレルヤは席に着く。

「(何なんだろう?)」

 そっと自分宛の手紙を開いた。

『アレルヤ・ハプティズム様

唐突ですが、お話が有ります
差し支えなければ一限目の授業を免除致しますので旧校舎生徒会室迄お越し下さい
 もしも来て頂けなかった場合には 』

「お迎えに上がります、だとよ!」
「…!ハレルヤ」

 不意に手紙の上に影が落ち、聞こえた声のあまりの近さにアレルヤは体をびくり、と震わせた。いつの間にかホームルームは終わっていたようで、立ち上がったハレルヤがアレルヤの手紙を覗き込んで笑う。

「生徒会長、ニール・ディランディ、ねぇ……大層な権限を持ってやがるみてぇだな」

 ハレルヤは自分宛の封筒を適当に破って開封し、アレルヤのものと全く同じ内容が書かれていることを確認した。

「ハレルヤ、どうする?もう一限目が始まるよ?」
「おもしれぇ、行ってやろうじゃねぇか」

 楽しげに笑って歩き出すハレルヤのあとを追って、アレルヤは慌てて教室を出た。





「よく来てくれたな。その辺に適当に座ってくれよ」

 ニールは勢いよく開いた扉の方を見てにこりと笑った。何の遠慮もなく入って来たのはハレルヤ。ニールが指したソファーに、どかりと腰掛ける。その後に付いておずおずと入ってきたアレルヤは、ハレルヤにくっついてソファーに座った。その様子を見て更に笑みを深めたニールは、あらかじめ用意しておいた紅茶を出して二人の向かいに腰掛けた。

「改めて、生徒会長のニール・ディランディだ」
「テメェ、俺達に一体何の用だ?あぁ?」
「は、ハレルヤ!」

 初めから喧嘩腰のハレルヤに、アレルヤが慌てる。

「す、すみません、ハレルヤが、」
「いいさ、気にしなさんな。じゃあ簡潔にいこうか。二人とも、生徒会執行部員にならないか?」
「はぁ?」
「え?」

 二人はニールの言葉に驚き、アレルヤは首を傾げ、ハレルヤは眉を寄せた。

「それって、どういう……?」
「簡単に言うとお前さん達を気に入ったんだ。執行部は良いぞ?特権が沢山有る。成績を落とさず公務もしっかりやるなら授業免除だし、それに、」
「俺は入らねぇ」

 ニールの話を遮り、ハレルヤは拒否を示す。アレルヤは自分の片割れを見て再び首を傾げた。

「ハレルヤ?どうして?」
「生徒会とかかったるいしよ。テメェは良いのかよ?」
「僕は別に入っても構わないよ。断る理由も特にないし」
「本当か!?」

 アレルヤは照れた様にほにゃりと笑う。

「はい、僕で良ければ」

 おもしろくないのはハレルヤだ。アレルヤの返事を聞くと同時に立ち上がった。

「勝手にしろ。俺は面倒事には関わらねぇから。じゃあ、なっ!?」

 ハレルヤが生徒会室の扉へ向かって一歩踏み出した瞬間、何かに腕を捕まれた。強制的にハレルヤの歩みを止めたのは勿論ニールだ。

「入ってくれよ。頼む!」
「っ、離せよ!嫌だっつってんだろ!」
「残念だが……実は拒否権なんてない。俺等が目を付けた時からな」
「……、くく、随分強引じゃねぇか!」

 口端を吊り上げ、ハレルヤは笑う。そして、次の瞬間ニールの手を振り払った。

「な、!?」
「やーだね。俺はやんねぇよ!」

 じゃあな、というセリフだけを残してハレルヤが生徒会室を出ていく。静まった生徒会室で、アレルヤはおろおろしながらニールに話し掛けた。

「あ、あの……すみません」
「お前さんが謝る事じゃないさ。それに……予想通りでもある」
「え?」

 ニールは笑みを浮かべると何処からともなく無線機を取り出した。校内行事などで使われる備品だ。

「こちらニール。ハレルヤに逃げられた。頼むぜ?」
『OK』
『ああ、分かった』
『了解』

 通信を切り、ニールは立ち上がった。

「アレルヤ、ここで好きに過ごして待っててくれるか?ちょっと行ってくる。二時間……いや、一時間以内には戻って来る」
「は、はい!」
「よし、お利口さん」

 にこりと笑って生徒会長は出ていく。後に残されたアレルヤは、ぽつりと呟いた。

「……ハレルヤ、どうやら僕達は、大変な組織に関わってしまったようだよ」





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