zucca





「なんだかボス機嫌悪くね?」
「…やっぱり?私もそうかなって思ってたのよぉ〜…空気がピリピリ痛いわぁ…せっかくの食事も喉を通らないっていうか…」
「だよね…居心地悪…」



zucca


「先輩〜、どうにかしてよ」
我慢の限界に達したベルフェゴールは、隣でテーブルに並べられた食事を黙々と口に運んでいるスクアーロへと、静かにぼそりと切り出した。…勿論、ザンザスには聞こえないように、小さな声で。

「ん゙ん?」
丁寧にナイフでカットされた一口大の肉を口に放り込む途中だったスクアーロは、その肉を口にしてフォークを銜えたまま横目でベルを見やり、ベルの視線の先を目で追った。ベルのその視線の先は、フォークを進める右手を止めてフォークを手にしたまま頬杖をつき左手人さし指で真っ白なクロスの敷かれたテーブルをコツコツと叩く、あからさまに不機嫌な態度のザンザス。
ベルがどうにかしてほしい"なにか"とは、どうやらザンザスのようだ。

「ボスがご機嫌ナナメでもう私達じゃどうにもこうにも…」
「………。」

ベルの隣に座るルッスーリアが、ベルの背中の方からコソコソとこちらを覗き込んでそう言ってくるものだから、スクアーロは大して動揺もせずに黙ったままゴクリと口の中の肉を取り敢えず飲み込んで、ルッスーリアから再度ちらっとザンザスの方へ視線を移した。
何時もに増して眉間に細かな皺が深く刻まれているザンザスからは、確かに機嫌の悪さが伺える。
スクアーロよりもいち早くザンザスの機嫌の悪さを察知したベルにルッスーリア。
こんなにもザンザスからは殺気が放たれているのに、それに気付かなかったスクアーロは暗殺部隊のNo.2らしからぬ鈍感さに感じるが、普段からザンザスの機嫌の悪さに慣れっこで毎度毎度八つ当たられてるスクアーロからすれば、この程度の殺気等は感じとる程の物でもなかった。故に一人呑気に食事を進めていたというところなのだろう。

はあと一息吐き、今度はワインを一口喉に通したスクアーロは、面倒臭そうに口を開いた。
「ご機嫌ナナメって何でだよ、今日の夕飯はボスの希望通りのモノだったろーが。酒だってボスの好みと今日の食事に合うモノを用意する為にオレがわざわざ上等のワインを取り寄せたんだぜェ?」
「何でって…それが判ればこんなに苦労しないわよぉ。おっかなくて聞けるわけないじゃない。そもそも聞いても答えてくれるとは思えないし…」
スクアーロの言葉に頭を悩ませながらそう言ったルッスーリアが続けて「ねぇ、ベル?」と隣のベルに同意を求めると、ベルは「先輩、頭悪いんじゃね?」と挑発的な態度で嫌味な笑みを浮かべながら言う。
「ゔお゙ぉいっ!ベル、テメェぶった斬るぞぉ!!」
「しししっ。やれるもんならやってみれば?」
「…覚悟はいいかぁ?」
見事にベルの挑発に乗っかったスクアーロ。
そんな二人のやり取りを隣でオロオロしながら見ていたルッスーリアが、向かいから刺すように痛い視線を感じ、恐る恐るその視線を感じるところへそっと目をやれば、ギロリと怒りを含んだ鋭いザンザスの視線とぶつかる。
そのザンザスの目は、ルッスーリア自身を含めた三人を五月蝿いとでも言いたげに、瞳の奥で静かな怒りの炎がゆらりと揺れた。

「ちょっと二人共っ!あんた達がそんな言い合いしてる場合じゃないでしょう!」

慌てて睨み合う二人をなだめたルッスーリアは困り顔でスクアーロを見て、「…ねぇ、スク。もう私達じゃお手上げよぉ。後は任せたわ」とそれだけ言ってその場を収め、「じゃあ、私はお先に失礼っ!ご馳走様ー」と食事を殆ど残したまま席を立つと、「オレもお先っ。先輩、後はよろしく〜」とルッスーリアに続いてベルがニヤリと笑いながら言い、ルッスーリアとベルは我先にと早足で部屋の扉へと向かう。
「ゔお゙ぉいっ!勝手に任せてんじゃね゙ぇっ!ちょっ、待て……!」
スクアーロの制止も虚しく、二人はスクアーロと不機嫌なザンザスを部屋に残して忙しなくさっさと出て行った。

「はぁ…」

残されたスクアーロは大きな溜息を一つ吐き出す。
こうなってしまえば、もうどうにかするしかない。
今、ザンザスの機嫌を直しておいたほうが後々楽だし、後から八つ当たられるよりはマシというもの。嫌な問題は今の内に片付けておいたほうが利口だということは、今まで嫌という程に身を持って経験していた。

「なぁ、ボス…何がそんなに気に喰わないんだぁ?」
「………」

スクアーロはこれ以上ザンザスの機嫌を損ねない様に言葉を選びながら静かに口を開き問い掛けるが、当の本人はだんまりを決め込んだまま。
返事を返さないどころか反応すらせず、こちらを見ようともしない。
そんな不機嫌丸出しのザンザスの態度にベルやルッスーリア達ならここで怯むところなのだろうが、そのザンザスの態度でさえスクアーロからすれば慣れっこ だ。
スクアーロは然して気にするでもなく、いつもの事だという風に続ける。

「何が不満か言わなきゃ解らねぇだろぉ」

その言葉に、ザンザスの眉毛が片方ピクリと上がった。

「…オレのコトならいちいち言わなくても把握するのがテメェの役目だろうが」
「ゔお゙ぉいっ!いい加減にしろ!何でも把握しろってかぁ?オレはエスパーか!そしてアンタは駄々っ子かぁ?!…はぁ、勘弁しろよ…」

そんな理不尽極まりないというか横暴と言えばいいのか、どちらにせよオレ様な態度というには間違いないザンザスに、とうとうスクアーロの堪忍袋の緒がぷつんと切れて、得意の大声を張り上げる。
スクアーロは怒鳴り散らすだけ散らすと、深い溜息を溢した。

「……るせェ…」
「あ゙?」

ザンザスの口から小さく洩れた言葉。
よく聞き取れずにスクアーロが聞き返すと、

「うるせェェェ!オレはカボチャが嫌いなんだぁぁぁ!!」

ドンとテーブルを拳で叩き付けたと思えば、ガタンッと音をたてて椅子を倒しながら立ち上がり叫ぶザンザス。

「はぁ?!」
ザンザスからのまさかの言葉。
いきなり叫んだザンザスに圧倒されて訳が判らずに、スクアーロは思わず間の抜けた声を出す。

「カボチャのリゾット?なんだあのべちゃべちゃした飯は!」
「リゾット美味いじゃねぇか…」
「リゾットがどうとかじゃねぇ!なんで野菜なのに甘いんだって話だ!」
「いや、だったら"べちゃべちゃ"とか関係ねぇだろ…」
呆れ果てたスクアーロは言葉を失い、どうでもいいツッコミを返すのがやっと。

「今度オレの飯にあんな気色悪ィ物体を入れてみろ、食卓ごと掻っ消してやる!」

そんなスクアーロはお構いなしに息も荒く怒鳴り叫んだザンザスはそれだけ言うと、はあはあと上がる息を調えながらチッと舌打ちしてくるりと身を翻し、スクアーロに背を向けて部屋を出るべく扉の方へずかずかと歩を進め、スクアーロはア然としたままその姿をただただ見送る。

「………。
……!ゔお゙ぉいっ!好き嫌いしてんじゃねーよっ!!我が儘言ってないでちゃんと食えー!!」

ザンザスがドアノブに手を掛けた瞬間、ハッと我に帰ったスクアーロが廊下にも響く大声で叫び怒鳴ったが、それを無視したザンザスは開いた扉を勢いよく閉めて部屋を後にした。

(…今度はバレないように上手く隠すしかねぇな…)

スクアーロは疲れきった顔で一人そんな事を考えながら、ボス様のお気に召さなかったそのカボチャのリゾットを一口頬張る。

「…やっぱ美味いじゃねーかよ」

そんなスクアーロの呟きは一人残された部屋に虚しく響き渡るだけで、とうに部屋を後にしたザンザスに届くことはなかった。



Feb.23,2010 黒江ゆきじ
スクアーロに甘えまくりの駄々っ子ボスが書きたかっただけという…
痛いボスですみません…!

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