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贈り火

 あの日、私を巡る世界がぐるりと反転して、何もかもが形を変えてしまった日。魂が空となって、波が引くように熱を失っていく家族の亡骸を前にして、私はもうこの先、普通に生きていくことは出来ないのだと思った。

 鬼殺隊に入った私は、誰かと深く関わり合うことを極力避けていた。新しく何かを得ることで、また失ってしまう可能性が付き纏うことが怖かったから。
 恐れは弱さに直結する、と私の師は言った。きっとその恐れというのは、親しい人を失うことではなく、先の見えない暗闇や戦いの中で死ぬかもしれないという気持ちに対してのことだと思う。だけど、私が最も恐ろしいと感じたのは、大切な人の手を掴めないことだった。

 鬼が強くなればなるほど、他の隊士はどんどんそばで斃れていった。そんなことが日常的に起こる世界。
 故郷も家族も、恋人の存在も、彼らのことなんて、何も知らない方がいい。知ったらきっと、人の形をしているだけの彼らに血が通い、心が透けて語りかけてくるだろう。そうなったら、私はもう前を向けなくなってしまうから。

 初めて自分の日輪刀を握った時、その刃が真っ黒に染まったのを見て師が残念そうだったことを思い出す。伝授された呼吸法が私に合わなかったのか、才能がなかったのか。何にせよ、黒刀の剣士は出世できないという話だった。

 でも私は、私にはぴったりだと思った。

 黒は何にも染まらない、染められない色。全てを呑み込んでしまう色。私の心も、きっとその色をしている。復讐のために生き、他者を拒絶して鬼を殺す。涙を吸っても血を吸っても、それは決して変わらない。変えてはいけないのだ。







「君は何故、いつもひとりでいる」

 男が投げ寄越した質問に、納刀した私は顔を上げた。たったいま殺したばかりの鬼の体が、ばらばらに崩れて、私と男の間で消えていく。燃えかすみたいだと思った。男が鬼からまた、私に視線を移す。
 答える意思がないことを示すように、私は踵を返した。

 男のことは、知っている。名を煉獄杏寿郎。私と同時期に入隊した者の一人で、先祖代々炎柱になる人間を輩出する、煉獄家の嫡子。

 知っている。嫌というほど。

 階級が同じか近しい隊士は、必然的に同じ任務に着任することが多い。特に私たちは同期だったから、彼とはよく任務が被った。

 煉獄は家柄くらいしかこの道に進む理由はないはずだ。けれど同期の中でもずば抜けて強かったし、どんな状況下でも理性を失わず、冷静に正解を選び取ろうとする研ぎ澄まされた思考力と判断力を持っていた。

 私の動機だって、何も間違ってはいない。寧ろ、ありふれていると言ってもいいくらいだ。鬼に家族を殺されたことを理由に鬼殺を志す者は少なくない。なのに、間違っているように思わされる。

 己自身の正義や道徳を以て振るわれる刃は、私のような憎しみに濁黒く染まっている刃よりもずっと美しく、嫋やかで、真っ直ぐな輝きを帯びていたから。







「名字、腹が減ったろう。飯でも行こう!」
「…………」
「遠慮しなくても、俺の奢りだ!」
「…………」

 毎度毎度、飽きもせずによくやる。挫折という言葉を知らないのだろうか。辞書でも投げつけてやろうか。そう思うけれど、反応してしまったら負けだと一層心を黒くする。

 私がいくら無視したところで、煉獄は次に会う時には忘れたように声を掛けてきた。
 任務先で、道端で、蝶屋敷で。世間話の時もあれば、食事や鍛錬の誘いの時もある。

 いつの間にか、当事者よりも周囲でそれを見ていた者たちの間で話題になっていたようだ。煉獄が期待された通り炎柱に就任したこともあって、元々目立っていた彼は余計に注目を浴びたのだろう。

 多くの鬼殺隊士は任務や鍛錬に追われる日々で徐々に関心を薄くしたけれど、金を得て成り上がろうとする連中は身体はちっとも動かないのに口だけはよく回る。彼らはいい暇潰しだと言わんばかりに、私を見かけては聞こえるように陰口を囁いた。

「ほんと、女の癖に愛想ないよな」
「いくら同期っても相手は柱だぞ」
「炎柱様もよくやるよ」
「可哀想だと思われてんだろ」

 異論も反論もない。彼らがそう思うように振る舞っているのは自分なのだから、憤るのも莫迦らしかった。
 どうってことはない。どんな罵詈雑言も、私の心の黒に溶かして消してしまえばいいのだから。

「今、俺の話をしていたか?」

 唇を固く引き結んで彼らの横を通り過ぎた直後、声は聞こえた。私も彼らも、はっとして振り返ると、彼らの向こうには煉獄が立っていた。怖いくらいの笑顔で、威圧的に腕組みをして。

 彼らとて、それを察せないほど鈍くはない。散り散りになって逃げていくのを見送り、腕組みを解いた煉獄が私に向き直る。

 彼は、困ったような微笑を浮かべていた。そんな顔をするくらいなら、最初から追い払うような真似をしなければいいのに。

「……私に、構わないで」

 空気を吸い、語気を強めて言い放つと、煉獄は悲壮な顔をするでもなく、寧ろ少しだけ嬉しそうに笑った。面食らったのは、私の方だ。彼は言う。

「ようやく、喋ってくれたな」







 頸を落とした鬼が消えていく。傷付いて倒れ、息も絶え絶えにその光景を見ていた隊士が、ほっとしたように微笑み、呼吸を止める。まだらに大地を染め上げる血。

「何故命令を無視した!」

 訪れた静寂を突き破るように、別の隊士が私に詰め寄ってくる。階級も年齢も上の彼は私含む応援部隊の指揮を命じられていたが、血鬼術に翻弄されて冷静な判断を欠いていた。その結果、一人が死んだ。

 指示は一時撤退だった。でも私は、死んだ隊士が命を懸けて作ってくれた隙を使って、鬼を斬った。

 私は亡骸を一瞥し、彼に視線を戻す。蒼い顔で唇を戦慄かせた彼は、私の胸倉を荒々しく掴んだ。後方に控える隊士たちが制止の声を掛けるものの、彼には届いていないらしい。

「お、俺のせいだって言いたいのか……!俺のせいでこいつが死んだって?!」
「…………」
「辞めろよ、その目……!そんな目で俺を見るな!」

 彼の固めた拳が私の左頬を打つと、時が動き出したように隊士たちが間に入ってきた。到着していた隠が慌ててやってきて、濡れた布を熱を持つ頬に当てがってくれる。

 引き剥がされていく彼はすっかり錯乱していて、泣き喚いていた。もう刀は握れないかもしれない。







「その頬、どうしたんだ」

 久しぶりに顔を合わせた煉獄は、目敏く私の頬について指摘した。こんな状態の時に会うなんて、全くついていない。心の中でつい、自分の運の悪さに舌打ちをする。

 いつものように無言を貫き通して、答えたくないと言うつもりで顔を逸らす。けれど煉獄は足早に私のそばにやってきて、強い力で肩を掴んだ。

「誰にやられた」

 その声音の低さに、思わず彼の顔を見上げてしまった。いつもは穏やかな彼は、珍しく怒っているようだった。先日、私に陰口を囁いていた彼らを、想像しているのかもしれない。

 私は顔を顰めて首を振る。だってこの傷は、自業自得だから。

 命令に従って囮になろうとする隊士の袖を、咄嗟に私は掴んだ。でも彼は微笑んでそれを解き、行ってしまった。指揮官を信じていたわけではないと思う。自分が行かなければ、もっと多くが死ぬことを知っていたのだ。

 あの時、もっと強く止めていたら。
 私が代わりに囮になっていたら。

 考えそうになる頭で、家族が死んだ時のことを回想する。鬼に対する真っ黒な憎しみで後悔を呑み込む。そうすれば、悲しい気持ちは湧いてこない。大丈夫。私はまた、刀を握れる。

 そう、立て直したのに。

 気がつくと私は逞しい腕に囲われていた。
 煉獄に抱き締められていると理解するのに時間を要する。そして理解した途端に、心が傾きそうになった。

「名字、君は何故、いつもひとりなんだ……!」

 頭上からいつかの問いが、悲痛な叫びとして再び降ってくる。

「っ!」
 
 私は彼を突き飛ばした。力量の差は同然で、彼を一歩離すくらいしかできなかったけれど。でもこれ以上、指先一つだって触れ合っていたくはなかった。

 煉獄なら、どうするだろう。そう一瞬でも考えた自分がいた。
 手を解いた隊士が行ってしまった時。

 きっと彼なら、みすみす死なせるようなことはしなかった。囮役を自ら引き受けて、他の隊士を守っただろう。もしかしたら、それよりもっといい案を考えて、取り乱した指揮の隊士を宥めることもしたかもしれない。

 でも私はそうしなかった。できなかったんじゃない。しなかったのだ。

 ここで死んだら、家族の仇が取れなくなる。そういう打算的な考えが浮かび、私をその場に縫い止めた。
 大切な人を守れないのは怖い。失うのは怖い。そうやって他者を遠ざけているうちに、私は目的以外にも大切なものを、ほぼ全て、捨ててしまっていた。

 非道だ。そんな奴は、鬼と変わらない。でももう、この道を戻ることはできない。だから、何もかもを拒絶するように、地面に叩き付けるように叫ぶ。

「私は、貴方みたいには、なれない!」

 一生、どうあがいても、私の黒い刃はその美しい炎刀のようにはならない。自分ではない誰かの為に命を懸けて、誇り高くは散れない。

 それでいい。それでもいいと、最初に決意したはず。鬼さえ殺すことができれば、他に何もいらない。求めない。ずっと一人で生きていく。
 誰かに隣にいてもらうような権利は、私にはないのだから。

 やがて、私たちの間を切り裂くように雨が降り始めた。緑と土のにおいが濃く香り、視界は徐々に白く烟っていく。

 指先まですっかり濡れそぼりながら、彼が何か言いたげに私を見つめている気配がする。だけど私はいつまで経っても、顔を上げることができなかった。






 それから煉獄と顔を合わせることなく数週間が経ち、私はとうとう、家族の仇である鬼と対峙した。

 鬼は歳を取らないという話の通り、あの日から寸分も変わらない姿で、その鬼は存在していた。幼かった私にはどんな生物よりも恐ろしく思えた相手は、逃げ足ばかりがすばしっこいだけで、笑えるほど呆気なく頸を落とすことが出来た。

 本当に、笑えた。笑えて、笑えて、壊れたように笑いながら、もう灰になるのを待つだけの鬼の身体に、何度も何度も刀を突き立てた。

 何も遺さずに消えていくことが赦せない。そんな罰では終われない。こいつの所為で、私の人生は滅茶苦茶になったんだ。ああ、頸を先に落としたのは失敗だった。少しずつ痛めつけて、死んだ方がましだと思えるような状態にして、じっくりじっくり殺していくべきだった。いや、直接手なんか下さず、地下に閉じ込めてゆっくりと餓死させるのがよかった。

 考えうる限りの残虐な殺し方を一つ一つ思い浮かべては、そんなことに何の意味もなく、ただ己の魂ばかりを奈落に向かわせるだけだとわかっていた。わかっていたけど、止まらなかった。救われたかった。私は私を捨ててしまいたかった。最初から。あの日から。

「やめろ」

 そう言う誰かに手首を掴まれた時には、鬼は完全に消えて欠片もなくなっていた。

 月に白く照らされた地面には、いくつもの縦長の小さな穴がたくさん開いているばかりだった。日輪刀の先が刃毀れしていることにも気が付かないくらい、夢中になって刺していたらしい。

 どうしよう。これじゃ、次の任務に支障が出る。早く刀鍛冶のところに持っていかないと。でももう、何のために戦っていたのか、よく思い出せないや。

 家族の仇を取れば何かが変わると思っていたのに、何も変わっていない。死んでしまったら、零から一に進むことは決してない。命を命で補うことは、できない。これまでもずっと、ずっとずっと、嫌になるほど見てきたのに、どうしてそんな当たり前のことに今更気付くんだろう。莫迦だな、私。

 生き汚い、なぁ。

 顔を上げると、哀しそうな顔で煉獄が私を見ていた。可哀想、という誰かの言葉が耳を掠めていき、唇を噛む。早く、全部黒に溶かして、消さなきゃ。そう思うのに、家族の亡骸を思い出しても込み上げるのは、涙ばかりだった。

 消せてなんていなかった。見えなくしていただけで確かにそこにあって、長い時間を掛けて降り積もっていただけ。それがいま、仇を倒したことで生きる理由を失った私に、罰のように突き付けられている。

「もうなにも、なくしたくない」

 何も持たなければ、何も求めなければ、奪われることもない。なくさなくて済む。だから私は、一人がいい。ずっとそうやって生きてきた。だけど。

「あなたみたいになれたらよかった」

 憎しみを抱いて生きるのではなく、ただまっさらな心で、自分ではない誰かを救う為に生きられたら、どんなによかっただろう。喪失感や悲壮感に打ちのめされても、例え死んでしまうのだとしても、誰かが自分の意志を繋いで、未来を作っていくことに希望を持てたら、どんなによかっただろう。囮になって死んでいったあの隊士や、煉獄、貴方みたいに。

 煉獄は真っ直ぐに私を見ていた。

 燃え盛る炎のような瞳。生きていることを証明するような、美しい輝き。名さえ知らない相手でも苦しんでいれば手を差し伸べ、暖かい光で照らしてしまえる人。

 私にはその光は眩しすぎる。どんな漆黒も、光を前にしては敵わない。照らされてしまえば白く塗り潰され、顕になった己の弱さや醜さに、裸で向き合わなければいけなくなる。そんな中で優しさを分け与えられたら、縋ってしまいたくもなるだろう。

 私の代わりに仇を取ってほしいと、何度彼に頼みそうになったことか。そして私がそう言えば、彼は必ずと誓ってくれることも容易に想像できた。だからこそ、頼みたくなかった。私の代わりに命を懸けてほしい、なんて。

 だって私はこの人を、どうしようもなく愛してしまっていたから。

「あなたも、きっと私の前からいなくなってしまう。それがつらい。あなたがすきだから、つらいの……」

 誰だって摘み取るなら綺麗な花が欲しい。だから神様も、素晴らしい人ばかりを先に摘み取っていく。いつか何かの本で目にした言葉は、私には笑えるほど納得のいくものだった。

 はらはらと止まない涙を流す私を、煉獄がどんな顔をして見ていたのかはわからない。だけど私を、力強く抱き締めた。

「俺みたいに、か」回顧するように、煉獄は呟く。

「名字。君は、君自身が思うほど、決して冷淡な人間ではなかった。怪我をした子供の肩を抱き、息子を殺された老婆の手を握ってやれる女性だった。それさえ利己的な行動だったとしても、君が斃してきた鬼がいて、それによって救われた人々がいる。曲げようもない事実。君が繋げた命の灯火だ」

 誰かに感謝を伝えられても、まともに答えられた試しがない。感謝されるような人間ではないからだ。私は煉獄に対してもどう答えていいかわからず、聞き覚えの悪い子供のように首を振る。

「俺にはわかるよ」

 どうしてわかるのかと、顔を上げて彼を見つめれば、煉獄は何だか得意そうに笑っている。それなのに、不意に眉根をぎゅっと真ん中に寄せて、切なげな顔をした。

「貴方みたいになりたいと言われたことが、何度かある。喜ばしいことだ。柱になった今でも少し、こそばゆく思う。俺はいつも、そう言ってくれた者たちを激励してきた。頑張ろう、一緒に……。だが君には、どうしても、それが言えない」

 すまない、と謝る声は泣いているように掠れていた。「俺は狡い男だ」
 その言葉が意味することを察したものの、素直に飲み込めるはずがなくて、私まで胸が苦しくなる。

「君が傷付き、心を殺していくのは見るに耐えなかった。俺は、君に生きて、笑っていてほしい。ただ、それだけでいいんだ」

 煉獄の為に生きる。そういう考えが頭の中で閃いた。けれど私は、それでいいんだろうか。確かに、狡い。煉獄はきっと、私に鬼殺隊を辞めて、死から遠い、安全なところで見守ってほしいと思っている。

 迷う私の手から滑り落ちた日輪刀が、とうとう真ん中からぽっきりと折れてしまった。刀を手放すべきだという、暗示なのかもしれない。

 目を伏せた私は、その時、折れた刀身の異変に気付き、目を瞠った。

 そして、一つの決意をする。

「煉獄、私は貴方を、狡い人にはしたくない」

 何故なら私は、彼の正しさこそを愛したから。

 私は煉獄の肩を押して身体を離すと、拾い上げた刀の、その断面を見せた。それを見て、煉獄も驚いている。

 私の刀は、確かに一見すると真っ黒だった。だけどその芯は、埋み火のように赤く赤く燃えていた。内に秘めたる炎が、私の道を照らしてくれる。

「私を継子にして下さい。貴方がくれた灯火で、私は貴方の為に生きる」

 そう言い、私は初めて、彼の前で微笑んでみせた。







 想いは、通じ合っていたと思う。

 けれど彼は最後まではっきりとした言葉で私に伝えることはなかった。私が予感していたように、彼もどこかでわかっていたのかもしれない。だから私を縛り付けないように、口にしなかったのかもしれない。

 都合のいい解釈かな、と私は口の端を持ち上げて微笑する。だって彼は、私の両手では抱えきれないほどに多くのものを与えて、灯火を大きくするだけ大きくして、いなくなってしまったから。

 結局、私は彼のことが忘れられず、他の誰とも結ばれないまま生涯を閉じた。鬼のいない平和な世界。とても、長い時間だった。


 十月の雨は冬の冷たさを帯び始めていた。ビニール傘越しに見る世界は、少しずつ灰色に染まっていく。変わらず色を灯し続ける信号だけが、やけに鮮やか。

 いや、鮮やかなものは他にもあった。歩いている道の向こうから、こちらにやってくる人。

 俯き加減に歩く背広姿の男性は、足早に季節を変える世界の中でも確かな輪郭を保っていた。見ているだけで胸がぎゅっと苦しくなり、涙の予感がする。

 立ち止まってその姿を焼き付けるように眺めていると、相手も何かに気が付いたように立ち止まった。彼が顔を上げたことで、私たちの視線は交差する。

「名前」

 迷いなんて、少しもなかった。ずっと繰り返し口遊んできたもののように溢れたことで、私の空白は充分に満たされる。

 彼が放り投げたビニール傘が弧を描いた。雨粒を蹴散らすように、離れた距離は埋められていく。
 傘を下ろした私を、すぐに熱い体温が包み込んでいた。こんな冷たい雨も気化させてしまいそうなほど、彼の炎はまだ燃えているのだ。

「君にまた会えたら、その時は絶対に伝えようと思っていた」

 杏寿郎が、涙で濡れた私の頬に触れた。

「名前。俺も君が、ずっと」

 掌から移る熱で、私の炎もきっと燃えている。あの時のように。その一言で、もっと強く、赤く燃え上がるだろう。私を生かし続けた炎。



執筆:サカイ様 / テーマ:「すき」
素敵なお話をありがとうございました
(20/10/22 掲出)



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