テスト週間1日目。柳先輩に勉強を教えてもらうため、図書室で待っていた。先に勉強を始めていろと言われて、一人、英語のテキストとにらめっこ。




「…ここ、違うよ」

「え…」




トン、と、テキストに指を置かれる。聞きなれない声に顔を上げれば、そこには見知らぬ女子がいた。これが、俺と名前先輩の出会い。

しばらく名前先輩に英語を教えてもらって、柳先輩が来る頃にはその日分のノルマは達成していた。聞けば、名前先輩は柳先輩に続いての学年首位。柳先輩は他の先輩達の勉強の世話もあるからと、俺の英語の面倒を名前先輩に任せた。
その日から毎日名前先輩に英語を教わり、俺はテストで先生にカンニングを疑われるほどに良い点がとれた。名前先輩に報告したときの、先輩のあの笑顔と、頭を優しく撫でられたことを、俺は一生忘れないだろう。

そんなこんなで俺はすっかり名前先輩に懐き、テストが終わってからも毎日昼になったら、ソッコーで図書室へ通っている。
それは今日も同じで、テニス部の先輩達と昼飯を食ったあと、俺はすぐに図書室へやって来た。




「……ほう、最近やけにすぐ教室へ帰ると思っていたら、図書室へ来ていたのか」

「げっ!柳先輩……」




図書室の扉を開けば、柳先輩と鉢合わせ。柳先輩は俺の姿を上から下まで一通り見たあと、後ろ…たぶん本の貸し出しカウンターの方を見て、また視線を俺に戻した。




「げ…とは失礼なやつだな。まぁいい。英語のテキスト…ということは、苗字に教わりに来たのか」

「ま、まぁそうッス…」

「ふむ……。では、俺はこれで失礼する。…“勉強”…頑張れよ?」

「………、」




柳先輩は、薄く、からかうような笑みを浮かべて去っていった。…くそ、なんか見透かされてる気分だ。

それから図書室に入って、カウンターまで直行。




「あ、赤也君。今日も来たんだ。毎日勉強なんて偉いね」

「そんなことないッスよ!俺、名前先輩との勉強は好きッス!」

「ふふ、ありがとう。じゃあ始めようか」




図書室では静かに!なんてよく言うが、そんなの気にかけてなんかいられない。
名前先輩と空いた席に座って、早速勉強を開始した。まず、自分で問題を解いてみて、わからなかったら先輩に聞く。これが決まり。
…って、早速躓いた。




「先輩これ……」




先輩に聞こうと思って先輩の方を見る……と、名前先輩はいつもより疲れたような顔をしていた。




「…あぁ、どこかわからないとこあったの?」

「……先輩、疲れてません?」

「…まぁ、ちょっとね」




先輩の話によると、委員達の手違いでいろいろあったらしく、朝から走りっぱなしだったそうだ。運動部でなければ運動神経が良いわけでもない、図書委員長の名前先輩が、そんなので体力が持つわけもなく、今このように疲れきっている。




「……疲れてるなら無理に俺の勉強見てくれなくてもいいッスよ?」

「……それじゃ私が駄目。赤也君とお話しするのが私の毎日の楽しみなんだから」

「っ!、」

「私から楽しみを奪わないで?」




…それは、どういう意味だろうか。期待…しても良いのか…?
先輩が俺の手を握る。どうやら名前先輩は、疲れると人に甘えたくなる性質らしい。…たぶん知らず知らずだが。

先輩の触れたところからじわじわと熱くなってくる。きっと顔は真っ赤になってるんだろう。




「………そんなに赤くなられたら私、期待しちゃうよ?」

「……っこ、今度のテストで、俺が英語で学年最高点出したら、言いたいことがあるッス…」

「…今じゃ駄目なの?」

「今は、俺の心の準備が……あの、えと…期待、しててください」

「ふふ、楽しみだな」




そう言って先輩は俺の頭を撫でた。俺はずっと下を向いていたから、その時先輩がどんなに嬉しそうに笑っていたかなんて、知らなかったんだ。



図書室へ行く理由
名前先輩に会いたいから。
…期待されると燃える。



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