虹色の明日へ | ナノ


色の明日へ
10.女の子はデリケート


「あとは食料品だけだね」
「……そなた、まだなにか買うつもりか」
「就兄さま、つかれちゃった?これでおわりだから、もう少しがんばってね」
「フン……早々に済ませ」
「うん。じゃあ行こう」
 服を大量に購入し、彼らをちゃんとした現代人に変身させたあとは、布団や日用品、それから下着を買いに行った。布団と日用品は、いくら近場とはいえさすがに荷物が多すぎて持ち帰れないので、宅配を頼んである。
 ちなみに、各々の服装はこんな感じである。
 幸村は、赤のパーカーに白地に虎がプリントされたタンクトップ、下はちょっとダボっとした感じのジーンズ。
 佐助は、迷彩柄のパーカーにシンプルな黒Tシャツ。動きやすい物がいいみたいなので、下はダークグリーンのカーゴパンツにしてみた。……パーカー主従。
 政宗は、白Yシャツに、白と青のストライプのアスコットタイをリボン風に。ジーンズはスキニータイプの物にした。
 小十郎は、ゆずかが選んだシャツを羽織り、中に浅葱色のタンクトップを。下はベージュのチノパンに、太めのベルトを合わせてみた。
 元就は、襟に黒のラインが二本入った白Yシャツにミントグリーンのロングカーディガンを。焦茶色がベースのチェックパンツでシックに抑えている。
 小太郎は黒の英字プリントロンTに、黒のカーゴパンツ。白のスタッズ付きベルトが唯一の色味で、見事に黒一色だった。

「(みんな、かっこよくなったなぁ……)」
 ……それにしても、下着を買いに行った時は大変だった。次に買うのは下着――褌だ、と伝えれば、幸村の「破廉恥でござるぅぅうぅっ!!」の絶叫がフロア中に轟いてしまうし。仰天してすっ飛んできた店員をごまかすのには苦労した。
 布団を買った時には、小太郎が“忍に布団など不要”と駄々をこねるし。気を使ってくれるのはありがたいが、自分のような子供と無口長身の男性が、一組の布団の前で押し問答をする姿は、かなり滑稽であったのではないかと思う。
「本当にすごいねー、先の世ってのは。これ、全部野菜?あっちには魚も見えるし」
「うん、向こうにはお肉もあるよ」
「肉はなんの肉だ?」
「ブタとか、牛とか、鳥とか。あと馬もたべるひともいるよ」
「(馬を食うのか……?)」
「コタ兄。べつに、かならず食べなくちゃいけないものじゃないから」
 馬肉なんて、ゆずかもまだ食べたことがない。そう言えば、周りの武将たちもホッとした顔をした。彼らの時代では馬は乗り物だから、やはり違和感があるのだろうか。
「いい野菜だな」
「お野菜すき?」
「ああ……、向こうじゃ育ててたからな」
「小十郎の野菜はなかなかdeliciousだぜ?」
「そうなんだ」
 それなら今度、庭で簡単な野菜を育ててもらってもいいかもしれない。スペースも余ってるし。それを伝えると、二人は嬉しそうに笑って快諾してくれた。
「見ろ佐助!団子があんなに沢山あるぞ!」
「幸兄はお団子すきなの?」
「好きなんてもんじゃないよ、旦那の甘味好きは」
「わたしも、甘いものすきだよ。いっしょだね」
「左様か!ならば、ゆずかも共に食べるでござる!」
「いいよ。でもそれなら、お団子だけじゃなくて、他にもいっぱいおいしい甘味おしえてあげるね」
「誠にござるか!」
「ゆずか、」
「あ、なに?就兄さま」
「我もそれに付き合ってやらぬこともない」
「あ……、うんっ。就兄さまもいっしょに食べよう」
「楽しみでござるな、毛利殿!」
「……フン」
 意外や意外、この二人は甘い物が好きらしい。幸村はわかる気がするが、まさか元就も、とは。人は見かけによらないものだ。
「(米を、こんなに買うのか)」
「おこめは現代人の主食なの。わたし、パンよりおこめのほうがすきなんだもん」
「(パンとは、あの茶色いあれか。……伊達が好きそうだな)」
「あー、英語しゃべってるもんね、政宗兄さん。食パンいくつか買っていこっか。コタ兄は、なんかたべたいものない?」
「(己は特に……、否、蒲鉾が)」
「かまぼこ?すきなの?」
「(己が居た国の名産だった)」
「へー。じゃあえらびにいこう」
 蒲鉾の名産地は何処だったか。……小田原とかあのへんかな、と考えていれば、並んだ蒲鉾を見ていた小太郎が、小田原の物を迷わず選んでいたから、きっとそうなのだろう。
「今日のお夕飯はなににしようかな。あ、そのまえにお昼ご飯たべなきゃ」
「こっちでは昼にも食べるの?」
「佐助さんはたべないの?」
「俺様たちのいた時代は、一日二食だね」
「そっかぁ、じゃあ二食にしたほうがいいかな……」
「そんなこと気にしないの。ゆずかちゃんは食べ盛りなんだから、いっぱい食べないと大きくなれないよ?」
「……女の子におっきくなるとか言っちゃだめだよ、佐助さん」
 今時の女の子はデリケートなのだ、と言えば、でりけーと?と聞き返されたので、繊細ってこと、と答えておいた。大きくなるなんて言われれば、なんか太るって言われてるようで嫌なのだ。
「俺様は、ちょっと肉付きのいい子のほうが好みだけど……っいて!」
「貴様、子供の前で何を申しておる。少しは物を考えて口を開かぬか!」
「あ、就兄さま」
 お菓子コーナーに置き去りにしていた元就が戻ってきて、手に抱えていたクッキーの箱で佐助の頭をぶん殴った。ていうか箱凹んだし。買うから構わないけど。
「なにも叩くことないでしょ、毛利の旦那!」
「口を聞くでないわ、盛りのついた猿め。ゆずか、これを我の為に買うがよい」
「いや、子供に菓子ねだるアンタもどうなの……」
 がっくり。肩を落とす佐助に、ゆずかは思わず笑ってしまう。それはほんの一瞬だったけど、それを目にした佐助はやけに嬉しそうで。
「やっぱり。ゆずかちゃんは笑ってたほうが可愛いと思うよ」
「え……」
「少なくとも俺様は、子供らしく笑ってるゆずかちゃんに魅力を感じるな」
 にこにこ、自分こそ満面の笑顔で、ゆずかを撫でる佐助に、ゆずかの顔が熱くなる。真っ赤になった顔を隠すように、卵を買ってくる!と言い捨てて、その場から逃げ出した。
「あー、逃げられちゃった」
「貴様……、ゆずかに悪影響を与えるようであれば、焼き焦がす」
「アンタねぇ、保護者じゃないんだから……」
 まだ出会ったばかりだけど、愛されてるね、と。さっきのゆずかの笑顔を思い浮かべて心の中で呟いてみたら、思いの外、心が温かくなって。自分もまだまだ甘いな、と佐助はひとり自嘲したのだった。


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