ゆめのあとさき | ナノ


 37


 村に戻るといういつきと別れ、再び五人で城下町を散策した。
 まだ早い時間とはいえ、一人では危険ではないか、と五葉は心配だったのだが、彼女の村はそれほどここから離れていないらしい。
 以前は雪深い奥地に住んでいたそうだが、一揆を起こしてからは人里近い場所に村を移したのだという。
「相変わらず、じゃじゃ馬なGirlだったな」
「子供はあれくらい元気なのが一番じゃない?見てて和むよね」
「へえ?アンタ、childが好きなのか」
「まあ、嫌いではないかな。私だって女だし」
 答えて肩をすくめてみせれば、政宗は大きく笑った。
「向こうに恋仲の奴はいなかったのか?」
「いなかったよ。あまり興味もなかったし、残念ながら縁もなくてね」
「Hum、見る目がねぇ奴らに囲まれてたんだな」
 気の毒そうに言って、ぽんと五葉の肩を叩く。
 この世界に来てからは何故か全く視えなくなってしまったが、幽霊だの亡霊だの、そういったものを視る眼をもつ自分を、受け入れてくれる男性などいない。そう思い込んできた五葉に、浮いた話があるはずもなく。
「しかし……、お前ももう良い年だろう?」
「向こうでの結婚適齢期は、20代後半なので。私は考えたことはないですね」
「へえ、それ本当?こっちじゃ考えられないねー」
 片倉の遠回しな問いには、年齢は答えずにお茶を濁す。この時代では確か、10代そこそこで嫁にいくのが当然なのだろうが、自分は決して行き遅れではないぞ、と。幸村や佐助も驚いていた。
「心配すんな。相手が見つからねぇようなら、そのうち俺が貰ってやるよ」
「それはどうも」
「本気にしてねぇな?」
「当たり前でしょ」
 本気にしてほしいなら、まず、そのニヤニヤと歪む口元をどうにかしろ、と。政宗の頬を指先で突っつけば、浮かんだ弧が深くなった。
「半分はJokeじゃないんだがな」
「悪いけど、冗談にしか聞こえない」
 そんなやり取りを交わす二人を、幸村が寂しそうな顔で眺めていることにも気づかず。
「……政宗殿」
「ah?」
「某、少々用を思い出しましたゆえ、しばらく五葉殿をお任せしても宜しいだろうか?」
「ああ、別に構わねぇ」
「幸村?どこか行くの?」
「すみませぬ、五葉殿。後程、戻って参りますゆえ。……行くぞ、佐助」
「え?あぁ、はいはい」
 軽く頭を下げた幸村と後を追う佐助が、五葉達から遠ざかっていく。どうしたんだろう、と思わず首を傾げていると。
「Hum……、なるほどな」
「なにが?」
「いや、なんでもない、気にすんな。わざわざ俺が言ってやる必要もねぇだろ」
「はあ……」
 勝手にひとりで納得されても、意味がわからない。
 しかし、それ以上政宗が何かを教えてくれることはなかった。


 ――青葉城の客室に戻った五葉は、歩き通しでパンパンになった足をだらしなく投げ出した。
「疲れたー……」
 手を伸ばして、張ったふくらはぎを揉みほぐす。少しは体力がついてきたかと思ったのに、この程度で疲れるようでは、幸村や佐助にはまだまだ追いつきそうにもない。
「楽しかったけど、さ」
 ずんだ餅も美味しかったし、いつきちゃんにも出会えた。上田とはまた違う町を味わうのは、とても楽しかったけれど。
 そういえば、あれから結局幸村達は帰って来なかったけど、そろそろ戻って来たのだろうか。ふと、そんなことを考えていれば。
「五葉殿、幸村にござる」
「え、幸村?どうしたの?」
 障子に影が映り、向こう側から声がかかった。突然何用かと、とにかく入室を許せば、音もなく障子が動く。
 失礼いたす、と入ってきた幸村は、どことなく顔を曇らせていた。
「お休みのところ、申し訳ありませぬ」
「気にしないでいいよ、一人でだらけてただけだし。用事は終わったの?」
 五葉がそう問えば、小さな頷きが返ってきた。
 やはり、幸村の様子がおかしい。声に張りもないし、いつもの周りを明るくさせるような彼の溌剌とした雰囲気が、どこかに消えてしまっている。
「とりあえず座りなよ。……、なにかあった?」
「いえ……」
「何もない、って顔してないよ」
 敷いた座布団に幸村を促し、なるべく柔らかい口調で問いかける。
 奥州に訪れる前、政宗との手合わせが楽しみだと瞳を輝かせていた彼は、どこに行ってしまったのか。
「私じゃ相談相手にはなれないかもしれないけど、話ならいくらでも聞くよ」
「……五葉殿……」
 佐助や、信玄公に比べたら、比較にもならないくらい頼りないかもしれないけれど。
「もし幸村の気持ちが晴れるなら、話してくれないかな?」
 五葉の声に、下を向いてばかりだった幸村が、意を決したように顔を上げた。


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