ゆめのあとさき | ナノ


 19




「五葉殿、大丈夫でござるか?」
「あー、うん。大丈夫だよ、幸村。心配してくれてありがとう」
 夕餉の時間。一緒に食事を、と尋ねてきた幸村と、私は夕餉をとることにした。
 しかしまぁ、佐助との稽古で正直筋肉痛と痣の痛みが酷くてひどくて。箸を持って、それを口に運ぶのすら辛い。食べ物を何度もポロリと落としてしまう私を見て、幸村が心配そうに訊いてきた。
「しかし、女子の体に傷をつけるなど……」
「いいのいいの。筋肉痛はわからないけど、痣は明日には消えると思うし」
「なんと。ずいぶんと回復が早いのでござるな」
「うん。これも天照大御神のおかげなんじゃないかな」
 都合の良いこと悪いこと。説明のつかない事象は、とりあえず天照大御神のせいにしておこう。深く考えるのは、また今度ってことで。
「そういえば、五葉殿はしばらくしたら奥州に行かれると、佐助から聞いたのだが」
「あ、うん。甲斐の異変と似てる気がして、少し気になるから。……ところで、奥州の伊達政宗公ってどんな人?」
「政宗殿は、素晴らしい武人にござる。時折、よくわからぬことを申される人ではあるが……」
「よくわからないこと?なにそれ」
「南蛮語にござる。れっつぱーりぃ、などとよく叫ばれておる」
「……えぇ」
 英語じゃんそれ、と思わず声を洩らせば、英語とはなんでござる?と問い返された。
 英語を叫ぶ、戦国武将。なんかもうシュールすぎて突っ込む気も起きない。
「政宗公は、幸村の好敵手なんだよね」
「左様。政宗殿との手合わせは、某が一番胸躍る瞬間にござる!」
 キラッキラした笑顔。よほど政宗公と戦うのが好きなんだろう。
「奥州に行かれる際には、某も五葉殿に同行するよう、お館様に申しつけられておりますゆえ」
「あ、そうなの?」
「うむ。それから、佐助も一緒でござる」
「そっかー……」
 裏なんかなんにもなさそうな笑顔で、私に笑いかけてくれる幸村に、ほんのり罪悪感。
「ごめんね、幸村」
「?何故、五葉殿が謝られるので?」
「幸村だって、佐助にだって、やらなくちゃいけないこと、しなきゃいけないことが沢山あるはずなのに。私、面倒ばっかりかけてる」
 上田城を与る者として、いろいろ執務もあるはずだ。それこそ武将として、毎日鍛錬もしなくちゃいけないだろうし。佐助だって、忍隊の長としての任務が多々あるだろう。
 それらに使うべき時間を、私が奪ってしまっているような気がして……。
「五葉殿」
「え?」
「謝ることなどない。五葉殿は何も気にせず、存分に甘えてくれて良いのだ」
「でも……」
「某の知らぬ場所で、五葉殿が傷ついてしまうほうが……某には辛い」
 箸を置き、じっと私の目を見て笑いかけてくれる幸村の優しさが。温かすぎて、少し、辛かった。
「(……がんばらなきゃ)」
 なるべく幸村たちに迷惑をかけないように。少しでも、幸村たちの力になれるように。ちゃんと、幸村たちが住む世界の異変を解決できるように。
 私は、そのために喚ばれたのだから。

「それに……」
「え?」
「焦らずとも、共に、歩んで行けば良いのです。某も佐助も、五葉殿を、独りになどいたしませぬ」
「……うん。ありがとう」
 そこまで真っ直ぐな言葉は、私を照れさせるには十分で。照れ隠しに、つい幸村の頭を撫でてしまえば。
 途端に巻き起こった破廉恥!!の叫びに、私は苦笑いを洩らしたのだった。



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