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あなたとスーツと
『君といたくて歪めた未来 笑って見せるさその罪も』 (作者不詳)
仕立ての良いスーツ着てさ。シャツも白や淡いブルーのヤツとかでさ。
ネクタイちゃんとして革靴履いてさ。書類作成ん時はメガネ掛けちゃったりさ。
で、ダイバーウォッチを外してるはずだったんだろうね俺たち。
間違えてるつもりはないよ? 現場の仕事も張り合いがあるんだから。
何よりアンタを選んだのは俺だから。
アンタが選んでくれたのは俺なんだから。
保大出ってのはキャリアつかエリートコースな感じで。実務にあたっても何年かで本庁に配属されるのが通常らしい。
当然のように俺にもその話は来た。勿論あのヒトにも。
あのヒトは現場に誇りを持っていて。それを後続に伝えるのを苦にするどころかそれすらも誇りを持っていて。
俺はそんなあのヒトの背を全力で追っていて。そんなあのヒトを惚れ貫いていて。
そんな俺を隣に立つ事をあのヒトは赦してくれた。俺の手を取ってくれた。
そんなあのヒトしか要らないと俺は他のヒトの手を取らなかった。
それが『エリートコース』とやらを外れる事になってもどうってことなかった。
保大の同期にバカにされても陰口叩かれても。
俺は笑って言ってやれる。「それがどうした?」ってね!
「あ。ついでにたこわさ頼みます?」 「せやな」
今日は久々に嶋本さんがこちらに来てくれている。お前ばっかしは悪いしな、て笑う。
はい、喜んで!と店員の威勢のいい声があちこちから聞こえてくる。
関空での事。俺の隊の事。新人への教育の仕方など、こんな店で話すのは仕事の話になってしまう。
「星野んヤツがやっとこさ使えるようなってきおったわ」
「大羽もだいぶ落ち着いてきましたよー。指示も早くなったし」そんな話も大切だけど。だけど知ってるよ?
本庁の幹部候補として名前が挙がっていて。だけど現場が性に合うからって。ゆくゆくは人を育てたいと断っていることも。
先物買いのように縁談が増えた事も。だけど「大事なヤツがいるから」って全部断っているのも。
知ってるのは何故だって?だって俺にも来ている話なのだから。
まだまだ前線で現場にいたいから。
あなたの教えてくれた事を伝えたいから。あなたの背を追っていたいから。
何よりアンタと生きていきたいから。
俺にきた話をこのヒトは多分、知っている。断った事も知っている。
その話はあとでベッドの中で報告しよう。
今は俺の向かいで焼酎の旨そうに呑んでいるこのヒトの笑顔を目に焼き付けよう。
仕立ての良いスーツ着てさ。シャツも白や淡いブルーのヤツとかでさ。
ネクタイちゃんとして革靴履いてさ。書類作成ん時はメガネ掛けちゃったりさ。
で、ダイバーウォッチを外してるはずだったんだろうね俺たち。
間違えてるつもりはないよ? 現場の仕事も張り合いがあるんだから。
何よりアンタを選んだのは俺だから。
アンタが選んでくれたのは俺なんだから。
出世よりも世間体よりも。己の誇りとアンタがいるならどんな未来も笑って生きていけるよ。
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