好きな相手に好かれるだけのコトが。 ただそれだけのことがこんなにも。


こんなにも絶望的で、こんなにも幸せな恋は初めてだった。



勤務が終わり小鉄さんの車に乗せてもらって帰路に着く。
兵悟のワケわかんない質問に少ない言葉で小鉄さんが返してる、そんないつもの帰り道。
震える携帯に期待してしまう自分がやるせない。

「・・・遠慮するな」 言葉が少ない小鉄さんは何処まで気がついてるのだろう?
「んじゃ、失礼しまーす!」 わざとはしゃいで携帯を開く。
兵悟が何か言おうとしてたが、小鉄さんに馬に蹴られるぞ、と言われキョトンとしていた。
「馬に蹴られるような間柄になりてぇよ」 呟いた声は聞こえない振りをしてくれた。


絶望的な恋をしていた。受信メールひとつで浮かれていた。
送ってはいけない未送信メールが溜まっていった。


だから、受け入れてもらえるなんて想定外だった。


職場ではそんな感じをお互いまーったくさせないけれど(それはあの人を守る事に繋がるから)
花の下の、あの夜から少しずつ変わっていったモノがあった。
更に深くなっていく気持ちが、鼓動となって俺を動かしているんだ。


送信者:嶋本軍曹
件名 :
本文 :会議終わった。今から行く。


宛先 :嶋本軍曹
件名 :お疲れ様です♪
本文 :了解! ツマミ用意して待ってます。


「あ、グラス冷やしとけばよかった」
お帰りなさい、お疲れ様ですの挨拶の後の俺のセリフに嶋本さんが笑った。
「ビール冷えとんならええわ」 ツマミは何なん?お、カルパッチョなんてシャレとんなぁ
当たり前のように出来る会話が嬉しい。それは凄い奇跡な日常。


まずは缶ビールで乾杯して俺が作ったチャーハンを二人で食べる。
今度は俺が作ったるわ、と笑う嶋本さんの笑顔が眩しい。
洗い物をしてると悪い顔で笑った嶋本さんが後ろから覗きこんできた。


「お前、顔真っ赤」肩に甘えるような仕草。でも悪い顔で笑ってる。
「仕方ないじゃん!近いし!嶋本さんのニオイするし!」 もう逆ギレな気分!
「照れてるお前かわええ」 「・・・嶋本さんも赤いデスヨ」

そう口にしたら足を踏まれた。


「フツーな嶋本さんに悔しい」  「・・日本語になっとらんで」
いつもと変わらないように見える嶋本さんに不安になる。
「俺ばっかり浮かれてるようでかっこ悪いし」


「嶋本さんの前ではカッコ良くいたいオトコゴコロ判って欲しいし!」

思わず意味不明な事口走った俺に後ろから柔らかく腕がまわされた。

「あほ」  お前ばっか浮かれてるわけやないで。

背中に伝わってくる心臓の音はとても速く、強い鼓動を刻んでる。
ああ、嶋本さんもちゃんとドキドキしてくれてんだ。 あれ?俺、乙女な思考じゃん?
口に出てたのか笑いながら嶋本さんが言った。 「お前もドキドキせえ」


泡は流したけれど濡れた手を拭う間も惜しくて、そのまま抱き締めてキスをした。
冷たいやんか!と怒ったあの人の顔は赤くて、笑ってる。




好きな相手に好かれるだけのコトが。ただそれだけのことがこんなにも。



絶望的な恋をしていた。 受け入れてもらえるなんて思ってもなかった。
今でも信じられないくらいな奇跡。
嫌われたらどうしようとかの根拠のない不安や怖さがあるけれど。


好きな相手に好かれるという、ただそれだけのことがこんなにも、


こんなにも泣きそうなくらい幸せで、日々の優しさを感じさせてくれるんだ。


絶望的で幸せな恋を、絶対的で幸せな愛に変えてくれたんだ。




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「好きな相手に好かれるという、ただそれだけのことが 」

いつ読んだか聴いたか思い出せないけどずっと頭に残ってた言葉。
うちの片想いせいじろには絶望的な恋、という言葉と共にイメージな言葉です。





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