「すまねぇ。」
放課後の校舎裏に、澄んだソプラノの泣き声が響く。絞り出すように「ありがとうございました」と呟いて、逃げるように去っていく後ろ姿を見つめて溜め息をひとつこぼした。
女は苦手だ。何を考えているのか分からねぇし、なよなよしていて弱い。何よりも今、色恋にうつつを抜かしている暇はないのだ。
「あーあ。女泣かせめ。」
聞き覚えのある声に振り返ればナマエが女子の去っていった方角を見つめがら現れた。こいつと俺は互いに仲が悪い。今ではもう何時からだったかも忘れてしまった。…理由は風魔絡みだった気はするのだが…。
「うるせぇ。ぶっ飛ばすぞ。」
ぎろりと睨んで言うと壁にもたれかかったナマエは、ふっと笑った。こいつだって実際女子には人気があるのだ。猿飛たちが邪魔するせいで実際に行動に移す奴は少ないが。
「そんなんで大丈夫なのかよ。副部長がこんなんじゃ、政宗も大変だろうなぁ。」
ふい、と部活中のグラウンドに目を向けるナマエ。
「はっ、テメーこそ風魔に愛想尽かされねぇように気をつけるんだな。」
にやりと笑って言うとナマエはぎろりとこちらを睨んで立ち上がる。
「お前にいわれる筋合いねーよ。それにお前が小太郎の名を呼ぶな。」
踵を返し立ち去ろうとするナマエに「政宗様に言うんじゃねーぞ。」と釘をさす。ナマエは振り返らずにそのままひらひらと手を振った。普段憎まれ口ばかりたたき合っているが卑怯なことをする奴ではないので遠ざかっていく背中を一瞥して踵を返した。
(俺は、案外お前のこと、嫌いじゃないんだぜ?)(挨拶の代わりに皮肉を交わそうか)