「ナマエのバカヤロー!!」
ホグワーツの中庭に大きな怒声が響いた。それを叫んだ主であるシリウスは顔を真っ赤にさせて寮の方角へと去っていく。その後にびくびくおびえたピーターと呆れ顔のリーマスが続く。遠ざかる3人の背を見送って後に残されたナマエは周囲からの居心地の悪い視線を感じて大きなため息をついた。
「(……ナマエの奴……!)」
ああ、今思い出しても腹が立つ。
「(せっかくホグズミードに誘ったのに……!)」
面倒くさい、だって?
「(試験明けの久しぶりに空いた休日なんだぞ……!)」
肩を怒らせながら歩調を早めると後ろから「待ちなよ」とリーマスの声がかかる。近づいてくる足音に振り返らずに沈黙を返せばはあ、とため息をつく音が聞こえた。(ため息は嫌いだ。ナマエがよくつくから)
「まあ怒る気持ちも分からないでもないけどさ……どうしたの?ナマエが面倒くさがるなんていつものことじゃないか」
リーマスの言葉に勢いよく振り返る。ああ、そうさ!そうだけどな!!
「だけど今度は本当に、本当に久しぶりにゆっくり会える休日なんだぜ!?学校の付き合ってる奴等はほとんど出かけるのに……!あのジェームズとリリーだってな!!」
言っているうちにだんだん悲しくなってきて思わず黙り込む。
「あーまあ、そうだけど……」
ぽりぽりと頬をかいてリーマスが口ごもる。そしてしばらく口を開いたり閉じたりした後にぽつりと呟いた。
「つまり……羨ましかったってことでしょ?」
その言葉に悲しいんだか寂しいんだか自分でもよく分からない感情がぐちゃぐちゃになって半ばやけになって叫んだ。
「ああそうだよ!ジェームズたちが羨ましかったよ!!」
悪いか、とリーマスを見つめればリーマスはふ、ともう一度ため息をついて俺を見上げた。
「じゃあシリウスはそんな簡単に諦めちゃうの?行きたかったんでしょ?好きな人と一緒にホグズミードに」
「行きたかったけど……もういいんだよ!ナマエのことなんかもううんざりだ!」
大きく頭を振って立ち去ろうとローブを翻せばリーマスがぎゅっとひらめく裾をつかんだ。
「ならシリウスはナマエのことが嫌いになったの?」
「そんなことない!!」
思わず反射的に答えてしまってからはっとして口をつむぐ。けれど時既に遅く楽しげな笑みを浮かべたリーマスがにっこりと笑ってこちらを見上げた。
「だったらそんな簡単に諦めちゃ駄目だよ。さっきも言ったとおりナマエの性格は知ってるでしょ?きっと恥ずかしかったんだよ。中庭、人も多かったしさ」
ナマエは、恥ずかしかったのだろうか。確かに彼は目立つことを嫌うし中庭には人も大分多かったから、もしかしたら……。
「本当に……そう思うか?」
ぽつりと小さな声で呟けば「もちろん!だって好きじゃなかったら付き合ったりなんてしないでしょ?」とリーマスは綺麗に微笑んだ。今更やっと追いついたピーターが息を切らしてその場にへたり込む。俺は急いでもう一度ナマエを探しに中庭へと駆け出した。
「リ、リーマス。もう、シリウスの機嫌、直った、の?」
「まぁね。もう大分シリウスをなだめるのにも慣れたよ」
「な、なだめ……」
「大体ナマエが恥ずかしいなんて高尚な感情持ってるわけないでしょ。いつも僕に尻拭いばっかりさせて。ちょっとは苦労すればいいんだよ。」
にやりと笑ったリーマスにピーターがぶるりと体を震わせた。
「ナマエ―!!」
「(なんで)」
ゆっくりと後ろを振り返ると先ほど随分と怒りながら中庭を立ち去っていったシリウスがけろっとしてこちらに向かって手を振っていた。いつもだったらもう2、3日はぶーぶー言っているのに。
「……何、シリウス」
「いいからこっち来てくれ」
彼に手を引かれて歩く俺を女生徒がすごい目で見ている。(頼むから離してくれ……!)
さくさくとした足取りで連れてこられたのは温室だった。薬草学の授業のとき以外には滅多に立ち入らないため人の気配はなく時たま何の声かは分からないうめき声なんかが聞こえてくる。何でこんな所に?とシリウスを見つめればきらっと輝く瞳と目が合った。
「な、ここならいいだろ?週末にホグズミードに行こうぜ」
彼の思考回路がどうなっていて、どうして中庭が駄目なでここならいいと思っているのかはよく分からないが何か大きな勘違いをしているらしいことはよく分かった。
「あーシリウス。さっき俺、断ったよね?週末はゆっくり休みたいから遠慮する」
もう一度確かめるように繰り返せばシリウスが顔をしかめた。さっきのリプレイを見ているようだ。
「なんでだよ!場所変えたじゃねーか!」
「何をどう勘違いしているのかは知らないけど場所は特に関係ないから。俺もう帰るね」
踵を返そうとするとシリウスにローブの裾をつかまれた。
「な、んでだよ!なんで……そんなホグズミードに行くのを嫌がるんだよ!」
「嫌っていうか……面倒くさいから」
淡々と返せばカッとシリウスの顔が赤くなった。ああ、面倒だ。
「面倒くさいって……いつもナマエはそうじゃねーか!!何でもかんでもだるいって……!じゃあなんで俺と……その……付き合ってるんだよ!お前は俺の……!!」
騒ぐシリウスを黙らせるために首元をぐい、と引き寄せる。ゆっくりと吸い寄せられるように近づく薄い唇にそのまま軽く口付けた。びしりと固まった体をほんの少し抱き寄せて真っ赤になった耳元に囁いた。
嫌なら他をあたろうね
(なあムーニー。どうしてパッドフットはあんなに上機嫌なんだい?ナマエに週末の予定断られたんだろう?)(……さあね)
♪Thanks title by 確かに恋だった