穏やかな陽光がゆるゆると窓辺から降り注ぐ。すう、と息を吸えば使い古された本たちの煙るようなくすんだ香りが肺を満たした。隣で楽しげに何かを話している恋人に適当に相槌を返してぺらりとページを捲った。
「それでなピーブスの奴まんまと引っかかったんだ!今頃必死になって血みどろ男爵から逃げてるぜ!」
「うん」
「あと昨日の夕食の時のリーマス見たか?アップルパイばっかり35個くらい一気に食ってたんだぜ!それを見たピーターが吐きそうになってさ……」
「うん」
「……ナマエ、俺の話聞いてるか?」
「うん」
「今度、俺に最新型の箒買ってくれよ」
「うん」
「馬鹿」
「うん」
「……ナマエ……俺のこと、好きか?」
「……」
「何でそこで黙るんだよ!!」
ばん、と大きな音を立ててシリウスが机を叩いた。その音は静かだった図書館には大きすぎたようで周りにいた他の生徒が吃驚顔で一斉にこちらを向いた。ああ、視線が痛い。
「静かにしてくれ、シリウス」
俺が顔を顰めて言えばシリウスは「うっ」と唸って一瞬怯んだがすぐに調子を取り戻してきっと俺を睨んだ。
「だいたいナマエはそういう恋人らしいこと全然言ってくれないだろ!俺はナマエが言うまで引かないからな!」
さっきよりも比較的小さな声でそう宣言するシリウスにそっとため息を零す。どうしてこの恋人はこう次から次へとろくでもないことばかり思いつくのだろうか。
「じゃあ俺はあっちへ行こうかな」
読んでいた本を閉じて立ち上がろうとするとシリウスが「待てよ!」と俺の腕を掴んだ。握られた腕がぎしぎしと悲鳴を上げる。どんな力で握ってるんだ、こいつ。
「やあやあやあ、なんだか騒がしいと思ったらパッドフットとナマエじゃないか!」
ああ、また面倒くさいのがやって来た。
「……ポッター何も言わずに遠くへ行ってくれないか?」
今だシリウスに腕をつかまれた状態でポッターを見つめると楽しそうなニヤニヤ笑いと視線がかち合う。
「また痴話げんかかい?君たちはもうちょっと恋人同士としてお互いを思いやりあった方がいいんじゃないのかな!」
僕とリリーみたいにね!!そう言うとポッターは後ろの棚で”トロールにも分かる!魔法薬学の真髄”という本を手に取っていたリリー・エバンスを振り返る。エバンスは「げ」という表情をしてポッターから顔をそらした。
「やあ、リリー!今日もとっても素敵だね!調子はどうだい?」
「ええ、ありがとうポッター。あなたの顔を見るまでは最高だったわ」
距離を開けようとするエバンスの手をポッターが握る。そして手の甲に軽く口付けてにっこりと(俺に言わせればうさんくさい笑顔で)笑った。
「つれないじゃないかリリー!僕はこんなにも君のことを愛しているのに!」
「冗談はよして頂戴!鳥肌がたつわ!!」
ポッターの手を叩き落して足早に去っていくエバンスを「待ってくれよリリー!怒った顔も可愛いよ!」なんて言ってポッターが追いかける。周りにいた生徒が一斉にその姿を見送った。シリウスがこちらをきらきらとした期待のこもった目で見つめている。おい、まさか、嘘だろ?
「なあ、ナマエ……」
俺はねだるように腕を引っ張る恋人の腕を振り払うと、そのおでこを指でぴんと弾いて言い放った。
俺はそんな気持ち悪いこと言いません
(遠くでポッターがエバンスに殴り飛ばされた音がした)
♪Thanks title by 確かに恋だった